自動車・鉄道

【流体力学】風洞の空力評価と補正方法 (後編)

自動車風洞での実例

引用文献から、下記のような諸元の風洞について、補正係数を求めてみます。

引用文献のものを元に2種類の風洞諸元を用意しました。

SpecWind Tunnel 1Wind Tunnel 2
タイプ3/4 Open型3/4 Open型
ノズル面積28m228m2
コレクタ面積38m228m2
ノズル-測定位置長5.0m4.8m
ターゲットセクション長10.5m12m
ノズル絞り比6:16.43:1
ノズル幅7m7m
ノズル高さ4m4m
境界層制御装置B.C. SuctionB.C. Suction
ノズル圧力勾配-0.0016-0.0043
コレクタ圧力勾配-0.0006-0.0054

車体諸元はこのように設定します。

Spec乗用車1 Spec.
車体タイプSedan
車体体積6.5m3
全長4.4m2
投影面積2.058m
全高1.41m
全幅1.72m
ヨー角0 deg

それぞれの風洞に対して測定値の生値と補正後の値は次のようになります。

風洞Wind Tunnel 1Wind Tunnel 2
ブロッケージファクタ0.07350.0735
補正前Cd値0.3410.339
偏向/ブロッケージ補正後Cd値0.3340.336
圧力勾配補正後Cd値0.3270.308

圧力勾配の影響が風洞の特性によって大きく違いが出ました。しかしこれだけでは風洞の性能を比較することはできません。ここから言えることはあくまで、このような特性だ、という事実だけです。

このように、補正前後では、0.01近くCd値の違いが出ているので、無視できない影響があると言える。
ただし”補正後”の値が必ずしも正しいとは限らず、異なる風洞間の比較のために正規化する手法の一つと覚えておこう。
また、同じようなスペックの2風洞でも、ターゲットセクション長さによって補正後の値がかなり変化する点にも注目だ。

感度解析結果

各パラメータの感度

それでは風洞の良し悪しは決めるのは何でしょう?第一に流速分布が挙げられますが、異なる測定対象を計測しても一定の結果が得られる、というのも重要な特性になります。

オープンセクション、クローズドセクションそれぞれの補正方法が示されたので、感度解析によって各パラメータが補正抵抗値にどれぐらいの影響を及ぼすのか見てみましょう。

風洞を設計する際、なるべく誤差が小さくなるためにはどうしたら良いか?影響度の大きいパラメータを見ていくぞ。

風洞影響と車体影響を切り分けるため、車体諸元は先程の乗用車1.のスペックに固定した状態で見ていきましょう。下記のパラメータをいじります。

感度解析用の変数

吹き出し風拡大・偏向補正
\( H_N \):ノズル高さ
\( H_C \):コレクタ高さ
\( x_M \): ノズルからモデル中心までの長さ
\( M \):流れマッハ数

浮力補正
\( \frac{dp}{dx}_N \): 静圧勾配 (ノズル)
\( \frac{dp}{dx}_C \): 静圧勾配 (コレクタ)

ノズル高さはノズル断面積と同義になります。極端なアスペクト比の変化が無ければ直接影響は少ないため、今回はノズル高さを振って計算をしてみます。

解析結果:オープンセクション

各パラメータの感度解析結果は下記の通りです

ノズル・コレクタサイズ影響

最初に気になる部分ですが、測定物に対してノズルはある一定以上の大きさが必要であることが分かりました。事例で挙げたWT1では、ちょうど高さ4mなので、感度が少なくなる当たりに位置しています。

感度が小さいということは同じ風洞に異なる測定物を入れても、大きく測定値が変動しにくいので、良い傾向ですね。ブロッケージファクタで言えば約0.1、つまりノズルの面積は測定物の10倍以上はあったほうが良いようです。

一方でコレクタの直接影響は小さくなっています。経験式なので極値が出ていますが、現実的には風量の回収率を優先させても差し支えないように思われます。

圧力勾配補正

ノズル・コレクタの圧力勾配はそのまま正比例関係で浮力として作用するため、下図のようになります。比較的実測しやすいパラメータのため、補正の大きな誤差要因とはならなさそうです。

ここでは境界層補正を無視しているから一定の圧力勾配を仮定しているが、壁面境界層を考慮すると、圧力勾配も不均一なので一気に難しくなるぞ

測定物位置 xm

感覚的に真ん中が良さそうですが、、、やっぱり真ん中がベストですね!WT1ではテストセクション10.5mに対して得られた極大点は約5mで、頂点付近が最も勾配が浅くなりました。

マッハ数

最後にマッハ数の影響ですが、オープン方であってもM=0.6以下では大幅な影響は見られません。しかしM=1に近づくにつれてまともに計算ができなくなってくる (分母がゼロになる)補正式です。

クローズドセクションの場合

クローズドセクションではマッハ数と測定物位置xmの影響が消え、ノズル面積と圧力勾配だけになります。一見非常に結果が安定しているように見えますが、ノズル/コレクタの圧力勾配が測定物によって影響を受けてしまうという点は要注意で、またノズルサイズ自体もオープン型よりも感度が大きい領域があります。

パラメータ感度は以上です。どれぐらいの範囲までなら風洞のパラメータを変えても影響が少ないか、またあるサイズの風洞にどれぐらいの大きさの模型までなら入れられるかイメージが掴めたのではないでしょうか?

最後に、もうひとつの必要な補正として、境界層補正について説明しよう。他が合っていても、ここで結果がずれてしまうことも多いんだ。

境界層補正

境界層影響はBLC (サクションやムービングベルトなどの境界層制御装置)が作動しているかどうかによって変化します。それぞれの条件で境界層付近の流速を実測し、厚さを算出する方法が一般的です。バルク流速に対して流速が減少している分だけ、模型自体にかかる風速が変化し、⊿CDとして現れます。

こればかりはBLCのオンオフそれぞれでCDを計測し、1mm当たりの⊿CD感度を取得するしかありません。もちろんCFDでも境界層厚さを計算することも可能です。

本題はここまでです。ここまでの解析結果から風洞のパラメータ設定をする際に言えることは:

まとめ

  • 模型のテストセクション内の設置位置が風洞の精度に影響を与える。中央付近が理想的で、ノズルに近づくほど補正量が増大する。
  • ブロッケージファクタは0.1以下が望ましい。
  • 静圧勾配はそのまま浮力として作用するため、正比例の関係で測定精度に影響を及ぼす。

最後に・巨大風洞の魅力

講義が終わったところで、ここからはおまけだ。世の中にはこんなすごい風洞もあるぞ!という紹介を少しだけするぞ

航空機風洞

風洞は地味な装置ながら多くのノウハウが必要で、自動車用の低速風洞でも建設、運営には数百億円の費用が必要です。航空機用フルスケール風洞ともなると更に規模は大きくなり、このような設備投資を行うことが国力にも繋がると言っても過言ではありません。

NASA Ames NFAC Wind Tunnel

NASAの保有する世界最大の低速風洞です。フルスケールの航空機試験を行うことができ、米国航空機開発を長年支えてきました。

CIAM(ロシア中央高空研究所)高空試験設備

航空機エンジン用試験設備で、高空を模擬した低気圧条件での試験が可能です。特筆すべきは設備全体の規模と試験可能な条件で、海抜高度でのヘリコプター用ターボシャフトから、マッハ7のスクラムジェットエンジンのフルスケール試験が行える世界唯一の設備です。

設備全体は数km四方を占め、風洞試験用のメイン建屋だけでも300m近い長さがあります。高空試験設備はNauchno-Issledovatelskii Institut Priborov (ロシアの計器研究機関NII)の裏側にある風洞のお化けで、稼働に必要なエネルギーだけで火力発電所が建つ規模です。気蓄器のサイズからも出力の大きさを伺うことができます。

数々の軍事研究が行われ、その詳細はソ連崩壊後の現在でも謎のベールに包まれています。

参考までに、LE-5等の高空試験を行っている角田宇宙センターの高空試験設備を同スケールで表示するとこのような感じになり、いかにCIAMのスケールが巨大かが分かります。

TsAGIの近隣に位置していますが、両者合わせて航空機開発に必要な風洞試験設備が一通り揃っている、恵まれた開発環境です。写真はTsAGIの低速風洞です。

21世紀のエンジニアリング

近年は解析技術の向上によって試験の必要性が薄れつつある一方で、PIVの導入など計測技術も進歩して行っています。双方の技術が進歩することで、相乗効果が得られる。設計段階で実際の挙動が予測できる。実際の風洞のデジタルツインとなる数値風洞の完成、もしかするとこれが究極の完成形なのかもしれません。

そして複雑な流体現象を再現する風洞は恐らく最後の関門となることが予想されます。

本日も最後まで読んで頂きありがとうございます。経験式ということで少し地味な内容になってしまいましたが、もし何かの空力測定をする機会があったら、是非覚えておいてほしい内容です!
次回は久しぶりにまたターボ機械関係を計画していますので、お楽しみに!

参考・クレジット

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvs/32/124/32_9/_pdf

https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/1502/13/news051.html#:~:text=%E9%A2%A8%E6%B4%9E%E3%81%AE%E7%A8%AE%E9%A1%9E%E3%81%AF%E3%81%95%E3%81%BE%E3%81%96%E3%81%BE&text=%E8%A3%85%E7%BD%AE%E3%81%AE%E5%85%A8%E4%BD%93%E3%81%AF%E9%80%81%E9%A2%A8%E6%A9%9F,%E9%96%8B%E6%94%BE%E5%9E%8B%E3%81%A7%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E3%80%82

https://press.porsche.com/prod/presse_pag/PressResources.nsf/Content?ReadForm&languageversionid=992734&hl=rennserien-wec

https://www.mdpi.com/1999-4907/11/8/803

https://www.etw.de/wind-tunnel/aerodynamic-circuit

https://yamadaindustry.co.jp/general/

https://response.jp/article/2013/12/10/212666.html

https://kashika.info/wp-content/uploads/2018/06/5c662f28643029d4652c4b7a9f247444-1024×1024.jpg

https://514202-1632582-1-raikfcquaxqncofqfm.stackpathdns.com/wp-content/uploads/2020/03/9.gif

https://tdl.libra.titech.ac.jp/journaldocs/recordID/article.bib-02/ZR000000015921?hit=-1&caller=xc-search

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsass1969/46/531/46_531_206/_pdf/-char/en

https://www.volkswagen-newsroom.com/en/stories/facts-figures-somersaults-2217

https://www.windec.co.jp/wind/
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