ターボ機械

【ターボコンパウンドエンジン】The Turbo-Compound Engine

はじめに

この記事はこういう人向け

  • “ターボコンパウンドエンジン”って何?
  • 内燃機関にまだ改良の余地なんてあるの?と疑問に思っている
  • 今回の記事のレーティング:3 out of 5 stars

ターボコンパウンドエンジンとは

ターボコンパウンドエンジンとは、レシプロエンジンの排気ガスを利用してタービンを回し、動力回収を行うエンジンの一種です。

ターボコンパウンド(Turbo compound)とは、内燃機関の出力を増加させる装置の一つ。空気を圧縮する装置ではないので、過給器には属さない。

エンジンの排気ガスでタービンを回転させ、その出力を、ギヤ流体継手などを通じてクランクシャフトに伝える。

本来捨てているものだった排気から直接動力に変換するので、(タービンの排気抵抗を除けば)燃費を悪化させること無く出力の向上を図ることができる。

wikipediaより

へー、そういうのもあるんだ。。。ターボシャフトエンジンやターボチャージャー過給レシプロエンジンとの違いを知りたいなー!

みなさんこんにちは!本日は自動車メーカーに勤務していても知らない人も多いマニアックなレシプロエンジンの一種:ターボコンパウンドエンジンについて解説します!

また、今回から記事の一部にchatGPTで生成した文章を入れてみました!(*付きの段落に使用しています。)
感想なんかも頂けたらな~と思います!

ターボコンパウンドエンジンの中核を構成する過給機、タービン、動力伝達機構:写真のものは単段の電動方式

近年では電動コンパウンド方式も普及しつつあり、裾野が広がっています。

特徴

廃熱回収と言えば、廃熱を利用して蒸気を発生し、蒸気タービンを回すランキンサイクルなどが有名です。

コンバインドサイクル発電のことだね。ガスタービンの廃熱を有効活用する手段として、最近の火力発電所では主力の方式だよね。

そう!この方式は効率にはすごく優れるのですが、ガスタービンに加えて補助ボイラーに蒸気タービン、復水器、ポンプなどシステムが巨大化してしまいがちで、発電所には適していても小型化は難しいという難点があります。
そこで登場するのが排気ガスで直接ガスタービンを駆動するターボコンパウンド方式です。

ターボコンパウンドエンジンはこのような特徴があります。

  1. ターボ/スーパーチャージャー等で過給されている。
  2. 本来捨てられてしまう排気ガスのエネルギーを回収できるため、熱効率に優れる。
  3. 設計によってはパワーに優れる。
  4. 他の廃熱回収方式に比べ比較的軽量で出力重量比に優れる。
  5. 部品点数が増え、高コスト化しやすい。

このような特徴から、1940年代から航空機用エンジンへの採用が進み、鉄道や船舶、軍用車など高出力が求められる用途にも普及するに至りました。

仕組み

スーパーチャージャー・動力タービン方式

一言にターボコンパウンドと言っても方式や種類は様々です。ポピュラーな方式のスーパーチャージャー、動力回収タービン方式の例を挙げると下図のような構成になります。

B-29に搭載されたWright R-3350の後期型でDC-7旅客機等にも搭載されました。ピストン出力は3000馬力、タービンだけでも500馬力以上の動力を発生する巨大エンジンです。赤枠の部分が動力回収タービン (下写真)、青枠が遠心式スーパーチャージャーのインペラです。それぞれがギアボックスを介してクランクシャフトに接続されおり、タービン動力の一部はインペラを駆動するために使われます。

肝心のタービン部と熱源となるレシプロエンジン部を簡略化した図:排気ガスで駆動したタービンは流体継手を介して、クランクシャフトにトルクが伝達される仕組みです。

当時としては最新鋭の技術であったものの、材料技術、加工技術がまだ未熟だったため、故障が多発してしまいました。信頼性の低さから Power Recovery Turbine (PRT) ではなくParts Recovery Turbineなんという呼ばれ方もしていました。また同時期に登場したより軽量でシンプルな構造なターボプロップエンジンの普及によって航空機用エンジンからは姿を消してしまうことになります。

忌まわしいタービン部分。当時の技術では故障が頻発し、整備士からはディスられていた。

下の模式図は、4サイクルレシプロエンジンの間欠サイクルを平均化して、連続サイクルとして表したものです。
青い円筒が圧縮工程、四角いブロックでは燃料の噴射、燃焼を表しています。最後に膨張行程が赤い円筒で表されています。平均仕事で見た場合、燃焼エネルギーの一部は圧縮工程に使われます。ポンピングロスと呼ばれるものです。
その他、摩擦や冷却損失はこの図には含まれておりません。

スーパーチャージャー方式ではタービン駆動に必要な圧力が比較的低いため、エンジンを正圧に保つことが可能です。ガソリン、ディーゼル問わず2ストローク機関などへも使用が可能です。

ターボチャージャー・動力タービン方式

主流なもう一つの方式がターボチャージャーを駆動した後に動力回収を行う二段膨張方式で、車両等に採用されています。こちらの方式は膨張率が高く回収効率を稼げる反面、タービンに必要な圧力が大きいため、圧力バランスを保つのが難しいデメリットがあります。また、設計がまずいと、排気効率が低下しかえって燃費が悪化してしまうこともあり、設計難易度が高くなります。

Volv D13 Engine

このように、ターボチャージャー付き過給エンジンとの大きな違いは、ターボチャージャーはタービン動力は圧縮機を駆動するのみに使用されるのに対し、ターボコンパウンドではタービンから直接動力を取り出すことができるため、より効率に優れます。

ここで挙げたのは古典的なコンパウンド方式で、他にも電動方式など、さまざまなバリエーションがあります。最近ではハイブリッドパワートレインの普及によりシステムが多様化しています。

歴史

ターボコンパウンドエンジン誕生までには長い熱機関の歴史があります。

多段膨張

蒸気機関が発明されて間もなく、多段膨張方式の利用が広まりました。150年前当時のものはレシプロ方式が主流で、高圧シリンダで膨張工程を終えた蒸気を低圧シリンダに送り更に膨張されるという仕組みです。これらをコンパウンド蒸気機関、Compound Steam Engine等と呼んでいました。

やがて蒸気機関がピストン方式から空間効率に優れるタービン方式に置き換わっていくと、段数は増加することになります。

熱機関は膨張率が高ければ高いほど、取り出せるエネルギーが多い、つまり燃費もパワーも良くなります。そのため技術的な制約やコスト、空間制約の許す限りは段数を増やしたい、というが設計者の心理です。

特にタービンはピストンに比べて1段当たりで膨張できる最適な膨張比が低いため、段数は多くなります。

ターボコンパウンドエンジンもガスタービンもこの基本思想は変わらず、考え方は蒸気機関に遡ります。

近代的な多段翼の一例。

過給器付きエンジン

時代は進み1900年代に入ると、航空機や自動車を中心にガソリンエンジンが普及します。ガソリンエンジンは蒸気機関やガスタービンと違い、大気圧の空気を吸うため、燃焼に使える空気量、燃やせる燃料の量が限られています。そこで不足してしまうパワーを補う方法として、過給器=スーパーチャージャーが登場します。

スーパーチャージャーはエンジンの動力を使ってコンプレッサを駆動し、強制的に多くの空気を送り込む装置です。ルーツ式に代表される容積型、ターボ方式の遠心型があり現代でも双方が幅広い用途で活用されています。

スーパーチャージャーを搭載することで二倍、三倍もパワーが得られるため、第二次大戦が勃発すると、戦闘機などの高性能エンジンにはほぼ必須の装備となりました。

容積式スーパーチャージャー

遠心式スーパーチャージャー

しかしスーパーチャージャーには大きな欠点があります。大きなパワーが得られる一方、圧縮機を動かすためにエンジンの動力の一部を使用するため、燃費が悪いんです。特に太平洋のような長大な戦域で活動する航空機にとって、航続距離が問題となりました。

動力回収タービンの登場

スーパーチャージャーの欠点を補うためにこれまで蒸気に限られていたタービン翼が燃焼ガスでも使用する様々な試みが行われ、1920年代にはルドルフ・ディーゼル氏がディーゼルエンジンへの搭載に成功します。

1930年代を堺に1000℃を超える排気に耐えられる素材が完成したことで、ガソリンエンジンには排気タービンが装着されはじめます。高温排気タービンの誕生は次のような新しいエンジンを誕生させ、内燃機関の歴史を変えることになります。

  1. 排気タービンを利用して圧縮機を駆動するターボチャージャーの登場
  2. 排気タービンから動力を得るターボコンパウンドエンジンの登場
  3. ピストンを撤廃し、圧縮機と燃焼器のみで構成されるガスタービンエンジンの発明

P-38やB-29に代表されるターボ過給エンジンを搭載した米国の軍用機の有利性は今更説明は不要でしょう。

ターボ過給エンジンの模式図は下図のようになります。圧縮の上流に圧縮機、膨張工程の下流にタービンを備え、圧縮機をタービンで駆動します。吸い込み圧力が高まることでより多くの燃料を燃やすことができ、パワーが得られる仕組みです。また排気で捨ててしまっていたエネルギーを使って吸気を圧縮できるためポンピングロスが低減され、燃費も改善されます。(パワーに全振りして排圧が高い場合等、設計によってはそうならない場合もあります。)

諸説はあるけど、結局日本は終戦までに満足な性能と信頼性を兼ね備えたターボエンジンを完成させられなかった。。。なんて言われているよね。それまでのエンジンとは一線を画す性能を発揮できたっていうのはよくわかったよ。

そのとおりです!原理上ターボ過給エンジンは空気を送り込めば送り込むほど大量の燃料を燃やすことができ、無限大にパワーを発生することが可能です。
NAエンジンではF1用の超高回転、超高性能なものでも、容積辺りの出力は300~400馬力/Lが限界ですが、過給エンジンでは1500馬力/L以上(コンパクトカーサイズのエンジンでヘリコプターが飛ばせるぐらいのパワー)も達成可能です。
現実的には、ピストンやシリンダが耐えられる限界まで圧力を高めることができます。

究極系へと進化した内燃機関。排気タービンは大きな革命だったに違いありません。しかしここで悲劇が訪れます。
エンジニアは気づいてしまったんですよね。>>もうピストンなんていらないのでは?

これがガスタービンエンジンの登場です。

ターボジェットの到来

排気タービンの登場によって直接圧縮機を駆動することが可能となると同時に、イギリスではフランク・ホイットルによりターボジェットエンジンが発明されます。ガスタービンの排気を利用して推力を得るこのエンジンには重量のかさむシリンダブロックやクランクシャフト、複雑なバルブ機構などは一切不要です。

より軽量でパワーが出せることから、航空機には最適のエンジンで、発明からわずか10年で一気に普及が進みました。

ターボジェットの模式図です。レシプロ機関のようにピストンが存在せず、燃焼室の排気はそのままタービンに導入されます。タービンを通過した排気エネルギーが推進力として使われます。余計な部品がなく軽量で圧倒的な高パワーが得られますが、排気の大部分を捨ててしまうため、燃費では劣ります。

同様にターボジェットエンジンの排気の下流に更にタービンを追加して動力軸につなげたものがターボシャフトエンジン、これでプロペラを駆動するものがターボプロップエンジンです。現在ではプロペラ機の多くはこの方式です。

ターボ機関の種類と歴史についての詳細はこちらの記事も是非ご覧になってみてください!

ターボコンパウンドというすごくいいものができたのに、同時期にもっといいものができちゃったんだね、、、だからニッチなんだぁなるほど

時代の終焉

ターボジェットが登場したことで、レシプロエンジンの開発は一気に下火になってしまいます。ネイピア社が1949年に開発したディーゼルターボコンパウンドエンジンは、当時としては世界最高の燃料消費率と従来のガソリンに匹敵する出力密度を有していたものの、既に時代はターボジェット、ターボプロップになってしまい、売れることはありませんでした。

これぞオタクが大好きな変態エンジン!見た目からもわかるとおり、ガスタービンなのかディーゼルエンジンなのか、なんだかよく分からない、悪いところどりをしてしまったのが敗因だったのかもしれません。。。

ここまでの話は、航空機用エンジンの話で、自動車にターボチャージャーが装着されるのは1960年代に入ってからです。その間しばらくに渡ってターボ過給レシプロエンジンは忘れ去られることになります。

(その一方で船舶や大型のディーゼル機関はもう長年ターボが使われていて、装着が標準だったのでいかに異形種間の交流が少なかったか伺いしれます)

戦後の衰退

高出力エンジン用途にガスタービンが登場したことで、戦後ターボコンパウンドは一部の船舶や鉄道、軍事用のエンジンに限られる存在となってしまいました。

ターボコンパウンドはそもそもの欠点として、複雑さ故の設計難易度、コスト、整備性、信頼性等様々な問題を抱えています。戦闘機用エンジンとしては使えてもとても乗用車のような小型エンジンに利用できる代物ではなかったのです。

厳密にはコンパウンドはしていませんがルクレール用外燃式パワータービンがその一例:

外燃式燃焼室を採用するため厳密にはターボコンパウンドとは呼べないルクレールMBT用タービン。

下火となったターボコンパウンドは70年代以降陸上用途ではStrv108やルクレール戦車等で何度か復興の兆しを見せるものの、最終的にはやはり高いコストや整備性から忌み嫌われる存在となってしまいます。また頼みの綱の軍需用途でもT-80やM1エイブラムズに至ってはもはやガスタービン機関になってしまいます。

紙の上では良いけど、実際はトラブルだらけ、っていうのが業界の認識になってしまったんだね。
多額なコストをかけられる軍用ぐらいでしか活躍できないってなるとなかなか普及はしないよね

このようにターボコンパウンドは目立った成果、開発がないまま21世紀を迎えることとなります。

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