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【流体力学入門】風車はなぜ大きい?巨大化する洋上風力発電。発電効率の限界は?

https://www.ge.com/renewableenergy/wind-energy/offshore-wind/haliade-x-offshore-turbine

風車は巨大

こないだのツーリングの途中に見た風車、、、巨大だったな!りなこもくれば良かったのに

珍しく峠攻めじゃなくて、ゆっくりツーリングしてきたのね。行けば良かったかなぁ

たしかに風車って近くで見ると巨大よね。でもどうしてあんなに大きいんだろう?大きいほうがパワーは出せそうだけど、小さいのをたくさん作っても変わらないような気がするけど。。。

言われてみれば、そうだよな、100メートル?200メートル?ぐらいある気がするけどあんなにでかくする必要あるのか?それに最近だと洋上風力とかもよく聞くよな。洋上だと設置するのも大変だしお金がかかりそうだけどメリットはなんなんだ?気になるぜ

ほう、、、気になるかい?風車は古代エジプトで発明されて以来、三千年以上経った21世紀現在でも進化を続けている、実に奥深い機械なんだ。今日は風車が巨大化する理由と風車から取り出せる電力について見て行こう。

早速ですが、2021年現在、世界最大の風車の大きさはどれぐらいだと思いますか?

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答えは、、、GE製の14MW級風車、翼車の直径は220m全高260mでした。高層ビル並です。かなり大きいですよね!このトレンドは近年ますます顕著になってきており、10年前までは100m台の風車が主流でしたが、現在では200m、300mと年々巨大化が進んでいます。しかしなぜでしょうか?

本日は風車の仕組みと巨大化する理由、近年の洋上風力の普及の技術的背景について解説して行きたいと思います。

風車の仕組み

風車が発電する仕組み

風車は人類が発明した動力源で最古のものになり、古くから脱穀機や水ポンプの動力源として使用されています。 風力発電では風を羽根に当てて、軸を回し、繋がれた発電機を回転させることで電力を生みます。機械の中でもかなり単純な構造のものの一つなのではないでしょうか?

一般的に風など流体の運動を軸の回転運動に変換する装置を”タービン”と呼び、風車は英語では”Wind Turbine”=風タービン 等とも呼ばれています。風車のうち、羽根に該当する部分は”タービン翼”=”Turbine Blade”と呼ばれています。タービン翼はハブに接続され、翼が受けた力は、回転方向の力へと変換され、発電機を駆動する軸に繋がれています。機種によっては直接発電機に接続されるものや変速機を持つものがあります。多くの機種では翼の迎え角=”ピッチ”を変える機構を持っていて、このような機構を”可変ピッチタービン”と呼びます。

風車の主な構造は以上です!おもちゃの風車と
基本的な仕組みは同じです。

細かい改良はあるが、基本原理は3000年以上変わっていない。むしろ近年は再生可能エネルギーの普及が進み、それを牽引する主役は太陽光と風力発電なのだ。古代人はすごい発明をしたものだ。

タービン以外にも、発電機や軸、ハウジング、軸受など細かい部品はありますが、それらについてはまた別の機会に触れることにし、今日はタービンに着目して見ていきたいと思います。

風を回転に変換する”翼”

翼がどのように風を軸の回転に伝えるかを見て行きましょう。下の図は、タービン翼の断面を表した状態です。前の図に出てくるA-A図に該当します。ここで、下記のように風の速度を考えてみましょう:

  • 風車に当たる風の速度 w [m/s]
  • 風車の回転によるタービン翼の速度 u [m/s]
  • タービン翼から見た時の翼に風のあたる速度 v [m/s]

タービン翼は回転しているので、風の向きと翼に当たる風の角度は異なります。実際に翼にあたる角度をvとすると、図のような迎え角がついた状態になっていることになり、これはピッチによって変化します。①~③の状態それぞれを見てみましょう。

  1. ピッチが浅すぎて、風を逆方向に受けてしまっている状態。これだと使えませんよね
  2. ピッチが深すぎて、失速している状態。これもまた、翼としての機能を失っています。
  3. 最適な状態。一番効率良く風を受けている状態です。ヨットや飛行機の翼をイメージすると、分かりやすいかと思います。

なんとなく③が良さそうに見えませんか?人間の勘は鋭いので、多くの自然界の法則を感覚で見抜くことができます。もちろん外れることもあり、そのために色々な計算が必要なのですが、、、

風の速度は自然に決まるもので、成り行きに任せるしかありません。また風車の回転速度も、発電機をなるべく一定の速度で回すために、むやみ変えることはできません。そのため、タービン翼の角度を変えることで常に最適な角度を保っています。最終的に力を受けたタービン翼は、トルクという形でハブに力を伝達します。風車の中にはメンテナンス性や耐久性を優先してピッチを変えられないものもあり、固定ピッチタービンと呼ばれます。この場合当然発電機側に工夫が必要だったり、効率は犠牲にする必要があります。

翼が風の力によって押される原理は、よく”ベルヌーイの定理”や”翼の上下面の圧力差”で説明されますが、、、

半分正解で、半分間違い。タービンにおいてはもっと直感的な単純な原理で力に変換していて、風を当てた勢いでブレードが押される、と言ったほうが近いかな。
タービンには衝動タービンと反動タービンという種類があって、風車は反動タービンのほうに分類されるんだ。

実際にはタービン翼は回転しているので、絶対速度と相対速度を考える必要があって、タービン翼の設計の基本になっています。流れのベクトルと速度三角形については、また別の機会に記事を書きたいなと思っています。
原理自体に難しい数学は必要ありません。直感的にイメージして頂ければ大丈夫です。

風から取り出せるエネルギーと理論限界

風の勢いをブレードで受けて、その力で回転させる。直感的には分かるけど、定量的な力の大きさが分からないし、なんとなく煮え切らない方もいるかもしれません。そこでエネルギーの考え方に立ち返って、風車の最も基本的なベッツの法則について見てきましょう。

仮に風が持っている運動エネルギーをすべて取り出せるとしたら、風車を通過した後の風速は0になるはずです。しかし実際には損失を無視したとしても、そんなことは難しい気がしますよね?

次の図を見てみましょう。とある風車を通過する流線(空気の流れのこと)について見た時:

  • v1 [m/s]:風車を通過する前の流速
  • v2 [m/s]:風車を通過した後の流速
  • v’ [m/s]: 風車を通過する前後の風の平均風速
  • S [m2]: 風車の翼面積 (一回転する時に描かれる円の面積で考えます)
  • ρ [kg/m3]: 空気の密度
  • W [W]: 風車で得られるパワー

(飽きてきた方は次結論を述べるので、この章は飛ばちゃってください汗)

風の持つ運動エネルギーは1/2mv2です。また、①の通り、風車を通過する風の平均風速v’はタービン翼の前後の風速の平均になります。単位時間当たりに風車を通過する質量流量は1/2ρSv’、また風はタービン翼によってエネルギーを奪われるため、②が単位時間当たりにタービン翼が風から奪うエネルギー、つまりタービン翼に伝わるパワーです。②を式変形すると、v2/v1=γと置くことができます。この式に対して極大値を求めるため、γで微分すると、③式が得られ、γ=1/3の時に最もパワーが大きくなることが分かります。

したがって、最大パワー Wmaxが得られます。1/2ρSv1^3は、最初から風が持っていたパワーです。なので、このパワーが効率100%の時に回収できるパワーとなります。これに対して風車が得られる極大値は16/27なので、約59.3%になります。これが風車が風から取り出せるパワーの理論限界値です。仮に損失がゼロだとしても、これ以上のパワーを得ることは不可能です。

これをベッツの法則と呼び、風車の効率の理論限界を表します。

まとめ:ベッツの法則

風車が風から取り出せるパワーは59.3%が上限

最近新エネルギーを対象とした怪しい投資ファンドやベンチャーの話も聞きます。もし”効率85%の風力発電~”のような文言を見かけたら注意してくださいね。どれだけ効率を上げても理論上限は60%もありません!もしかしたら詐欺かも、、?

内燃機関は日々熱効率の改良が続いているが、登場してまだ200年。風車は遥かに歴史が長くこれまで色んな方式が試行錯誤されてきたんだ。それでコストや効率の最適化が進んで今の形になっている。それでもまだイノベーションが起こるから面白いのだ。

風車の効率意外と低いんだね。。。風が吹いてれば無限にエネルギーが得られるってわけでもないことが分かった。でも仮に効率が100%だとしても、空気の密度は変えられないし、風速だって常に強風なわけじゃないよね。

なるほどな、そうなるともうデカさだけで発電量が決まっちゃまうわけだ。謎は解けた!今日のネタバレに気づいちゃって悪いな!

洋上風力と巨大化の関係

前章で見た通り、たしかに風車は大きいほど発電量が大きいのは間違いないようです。半分ぐらい答えが出てしまったところで、風車巨大化のトレンドについて、もう少し見ていきたいと思います。

風車が巨大化する理由

いきなりですが結論から並べると:

  1. 翼面積が大きいほどたくさん発電できる。
  2. 単位面積あたりに設置できる発電量が増える。
  3. 高さが高いほど強い風が吹いている。
  4. タービン翼端が同じ速度ならば回転数が抑えられる。
  5. 翼は大きいほど、特に低風速域で効率が良い

逆に大きくすることによるデメリットもあります。

  1. 工事現場まで資材を運ぶのが大変
  2. 大きさを2倍にすると面積は4倍、重量は8倍になる:大型化には限界がある

ざっとこんなところです。

理由①

①については、最初の説明の通りで、大きければ大きいほど発電量も増えます。

理由②

②はどうでしょう?例えば風車の直径に2倍になると、専有する敷地面積も2倍幅広になります。しかし翼面積は4倍になります。なので、小さな風車をたくさん設置するよりも大量に発電できますよね。

ここまではイメージ通りね。言われてみたらたしかにそうかも、ってなるよね。

理由③

上空ほど強い風が吹いていることは体感的に感じることも多いと思います。ロープウェイや高層マンションで、強風を感じたことはありませんか?風は地表の近くほど弱く、上空に行くほど強くなります。そして、たった数百メートルの高度でも、地表以上の風が吹いていることは多いです。一見無風な日に風車が回っていたりするのもこのためです。飛行機が飛ぶ高度1万メートルにもなると、ジェット気流と呼ばれ、時速200~300キロの猛スピードで風が吹いています。国際便の行きと帰りで所要時間が違うのはこのためです。

つまり高いところ、地面から離れたところにタービン翼を設置するほど、風速が高いので小さい風車でもたくさん発電することができます。また、先程の式で見たとおり、風速は3乗で発電量に影響するため、わずか数十メートル高さを増やすだけでも大きな効果が得られます。

例題:

  • 風速8m/sの場合と10m/sの場合の発電量の比:10^3/8^3=1.95
  • 風速がたった2m/s変わっただけでも発電量は約2倍

理由④

翼の迎角の話で、ある風速に対してタービン翼は決まった角度でしか最高の性能は発揮できないことを説明しました。風速は自然任せです。なので、タービン翼が動く速度=周速はある程度限られてきてしまいます。ここで、直径が大きいほど同じ周速でも回転数を低く抑えることができます。

回転数が低いことによる利点はたくさんあります。寿命が伸び、保守間隔が長くて済む。騒音が軽減できる。などです。現実世界の制約をすべて無視して、理想的な風車を作るとしたら、直径数千メートルの翼を持ち、かつ翼の枚数は1枚になる、なんて言われてたりします。

理由⑤

翼の一般法則

翼は長ければ長いほど効率は良くなり、さらに大きければ大きいほど効率はよくなる。

法則は以上だ。Size Matters.力こそパワー。これだけ覚えてれば良い!

気になる方向け:流力を履修した方は覚えていますか、、、?これを、、、

流体の授業のせいで単位落とした。。。

なんて方もいるかもしれません。拒否反応が出なかった方は試しに巨大風車のレイノルズ数を計算してみましょう。

  • μ/ρ 空気の動粘度:1.5 x 10-5 m2/s
  • u 風速: 10 m/s
  • L1 代表長さ=小さな風車の翼弦長 L1 = 0.5m
  • L2 代表長さ=大きな風車の翼弦長 L2 = 5m

小型風車のレイノルズ数:Re1 = 3.3 x 10^5

大型風車のレイノルズ数:Re2 = 3.3 x 10^6

一般的に乱流になるとレイノルズ数が大きければ大きいほど抵抗が減り、損失が減少します。さらには風車では剥離が抑制されるため、揚力係数も拡大するとともに、よりアグレッシブな翼型を取ることが可能になります。これは実際に風車に関する数多くの研究でも確認されており、少なくとも現時点では、”大きければ大きほど良い”が定説になっています。

https://www.researchgate.net/figure/Influence-of-Reynolds-number-on-airfoil-NACA-0012-behavior-Musial-and-Cromack-1988_fig1_257011613

上図ではRe数の違いによる失速角の改善が良く現れており、つまりより高迎角に適した翼型の採用が可能、低い風速でも発電可能となることが分かります。微風でも発電できるため稼働率が上がり、定格の差以上に実際に得られる電力が増えます。

https://www.researchgate.net/publication/275724136_Reynolds_Number_Effect_on_the_Optimization_of_a_Wind_Turbine_Blade_for_Maximum_Aerodynamic_Efficiency

多くの風車は定格出力によってサイズが決まるため、このような出力の分布を引くことができます。風が強い時はどのような風車もそれなりに発電できますが微風でも発電できるのが巨大風車の一番のメリットです。もっと気になる方は最後に上図のリンクを貼ってあるので、確認してみてください!

洋上に風車を設置する理由

ここまで読んで下さった方はもうお気づきかもしれません。洋上風力が人気の理由はズバリ:

  1. 巨大な風車を設置しても、工事や資材の輸送に困らない。
  2. 遮蔽物がなく、常に強い風が得られる。
  3. 土地が実質無限にあるため、風の条件が良い場所があれば風車を大量設置できる。

主にはこの3点に尽きます。洋上は工事やメンテナンスが大変だったり、塩水対策が必要だったり、エンジニアとしては悪夢のような過酷な環境なのですが、それを補い余る魅力があるということですね。

米国、EUは2030年までにそれぞれ300GW以上の風力発電容量の設置、中国は500GW以上の設置が見込まれており、太陽光と風力による発電量は全体の20%以上となる見込みです。特に日本のように太陽光パネルや陸上風力を設置する面積が少ない国では、魅力的な選択肢のひとつと言えるでしょう。将来的にはどのような電源構成になるのか?確実に言えることは、

今、風力はアツイ!

ということです。(一部の人の間ではオワコンだとか、ネガティブなことが言われますが、世界的に見ると最もアツイ再生可能エネルギーとなっており、今後もずっと成長して行くと予想されています。)

3000年前の装置が未だに現役などころか、人々の生活を支える必要不可欠なものになってるなんて考えたら、胸熱だなぁ

以前、ドローンの記事で”翼が大きいほうが効率が良い”と述べましたが、まさにこのような理由がありました。意外なところで繋がりがありますよね。科学の世界は面白いもので、一見関係なさそうな事象も必ずどこかで関わりがあったりします。

今回も最後まで読んで下さりありがとうございました!また次回お会いしましょう。

次風車を見かけたら、なるほどなぁ~なんて思っちゃうかも。原理原則をしっかり踏まえて、再エネ発電事業の投資にでも挑戦してみようかなぁ

参考・クレジット

参考にさせて頂いたページとおすすめ記事です。

プロペラ径について言及したドローンの記事:

今回の使用素材:

https://publicdomainq.net/windmill-kinderdijk-0029334/

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Trude (まきブロ管理人)
機械屋さん。多くの人に機械の面白さやエンジニアリングの楽しさを知ってもらうべく、解説や紹介記事を発信しています。
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