はじめに
リッター1000馬力
いきなりタイトルを見てF1のエンジンが省燃費!?そう思われた方もいるかもしれません。どちらかと言うとパワーのイメージですよね。ところで皆さんはターボF1の黄金時代、80年代のリッター1000馬力時代覚えていますか?
おお、、、懐かしい。ちょうどスーパーカーブームの時代でもあったし、日本中の小学生やパパ達が熱狂していた時代だ。”あの頃は良かった”を象徴するような思い出だのう、、、
トラクションコントロールもパワステもなくて、ドライバーの負担が凄かったんだよね?映像では見たこと有るけど、でも生まれる前の話だし生では見たことないなぁ。。。
“リッター1000馬力”とはつまり排気量1L当たりの最高出力が1000馬力 (735kW)を超える、という意味です。乗用車ではリッター200馬力出れば、かなりの高性能エンジンと言われています。
1.5Lといえば、小型エンジンを搭載するコンパクトカーぐらいのエンジンの大きさです。
1500馬力と言えば、戦車並み。大変なパワーです。
写真のM1エイブラムズはエンジンはガスタービン機関で、補機類も含めたパワーユニットは車ぐらいのサイズがあります。
つまり小型車並の大きさのエンジンで戦車並のパワーを発生させることができたのが40年前のF1のエンジンです。もちろん燃費などはほぼ無視、パワーに全振りした尖ったエンジンでした。
しかし今日では燃費性能においても劇的な変身を遂げ、エコカー以上の省燃費とハイパワーを両立するに至りました。本日はそんな究極の4ストローク機関であるF1のエンジンについて見ていきましょう!
今のターボは1.6Lでようやく1000馬力だろ?ケッ、、、パワーもサウンドも下がっちまって、俺はNA時代のほうが好きだぜ、、、
それに昔のターボはリッター1000馬力、40年以上も古いのに今のはショボくないか!?
かつてのターボF1は出力密度の点ではガソリンエンジンの一つの頂点と言える代物でした。たしかにパワーでは今のエンジンは敵いません。でも現代のエンジンも侮れないですよ!
- F1マシンのパワー、スピードがどう実現されるか知りたい
- エンジニアという人種はなぜバイクやレーシングカー、レシプロエンジンが好きなのか、何が魅力なのかを知りたい
- エンジンには詳しいけど、知っていることを敢えて読み直してワクワクしたい。
- 今回の記事のマニアック度:
本記事は3部構成で紹介編、計算編、解説編分かれています。初回は主にF1とは、という紹介パート、技術的な解説やエンジンの詳細については次回以降でしようと思います。せっかくなので両方読んでくれると嬉しいです!
1/3(紹介編): F1とターボ過給エンジンの特徴について紹介します。
2/3半(計算編): 過給オットーサイクルと性能について計算をします。
3/3(解説編): F1エンジンコンポーネントの詳細について解説します。
F1とは
Formula 1とは
正式名称は”FIA Formula One World Championship”。FIA フォーミュラワン世界選手権、です。FIAが管轄する自動車レースの頂点に君臨するレースシリーズで、毎年15~18戦の”グランプリ”(レース)の総合成績で優勝が決まります。
F1に参加するためには、下位カテゴリとしてGP2(F2)、F3、F4、またその他WECやGT選手権、世界カート選手権等様々な大会で優秀な成績を収めてスーパーライセンスを授与される必要があります。
サッカーで言うとJ1、J2、J3。競馬で言うGI、GII、GIIIみたいなものだ。十両優勝して幕内になるのがスーパーライセンス授与で、同時には20人ほどしか所持していないからF1でビリでも他の選手権では優勝、なんてのも日常茶飯事なんだ。
恐らく多くの方のF1のイメージはと言うとNA(自然吸気)エンジンのあの甲高い爆音かと思います。
これだよ、これ!やっぱりNAの音は痺れるぜ!
F1って言うとこのイメージよね!まさに快音爆音!
F1のパワーユニットにはレギュレーション変更の歴史があり、かつては様々な排気量のNA時代があり、そして1.5Lターボ時代があり、その後またNAエンジン時代があり、そして再び2013年を最後にハイブリッドパワートレインと1.6Lターボエンジンに取って代わられました。
2014年から導入されたハイブリッドパワートレインは燃費を重視したレギュレーションのためレース中に使用可能な燃料は110Lとされました。このようなレギュレーション変更の影響もあり、1.6Lのエンジンで1000馬力程度にまでパワーは下がってしまいました。1.5Lターボ時代からすると一見退化のように見えるかもしれません。
昔のNAサウンドや1.5Lターボ当時の暴力的なパワーを懐かしむ人は多いです。現代のエンジンは昔と比べパワーは下がってしまいましたが、その代わりにガソリンエンジン最高峰の燃費性能を手に入れました。そして空力面の発展にとり実際のレースのタイム自体は年々速くなって、過去最速になっていることも事実です。
F1の性能
スピード
F1と言えば速さの代名詞のため良く他のレースカー等と比較されますが、一体どれぐらいの差があるのか、他のレーシングカテゴリと比べて見てみましょう。
F1 | MotoGP | LMP1 | FIA GT3 | |
ICEパワー kW*2 | 730 kW+ | 190kW+ | 370kW | 370kW |
システムパワー *2 | 850kW | 190kW+ | 730kW | 370kW |
車重 kg | 750kg | 157kg | 930kg | 1200kg+ |
100-300kph加速 | 6.0s | 5.9s | 5.9s | 10s+ |
300-0kph減速 | 3.8s | 9s+ | 4s | 5s |
コーナーG | 6G | 1.8G | 4.5G | 3G |
鈴鹿タイム | 1:27 | 2:07*3 | 1:35 | 1:58 |
ニュルタイム | ?推定5分以下 | 7分以下 | 5:19*1 | 6:05 |
スパタイム | 1:41 | ?2:40以下 | 1:53 | 2:19 |
*1: LMP1をベースにレギュレーションを無視した改造を施したもの (919 Evo)
*2:ICE(Internal Combustion Engine:エンジン本体)のみの出力です。F1とLMP1はハイブリッドなので、モーターも合わせると730kW (1000馬力)以上になります。
*3: MotoGPコースは途中にシケインがあるため、10秒ほどタイムが遅くなるため、四輪コースに換算をするとGT3クラスになります。
- MotoGP: バイクレースの最高峰。直線加速だけに特化したドラッグカーを除くと最速の加速を誇ります。
- LMP1:ル・マンプロトタイプ。F1を除けばサーキットでのタイムは最速、つまり二番目に速いカテゴリ。
- FIA GT3:市販車改造カテゴリ。と言われるけど実態はほとんど専用に作られたレーシングカー。市販車最速+α、車っぽい形をした乗り物の中では最速、ぐらいの速さをイメージして頂けるとOKです。レースカーとしては エントリークラスに位置づけられるカテゴリですが、もちろんスーパーカーやリッターバイクなどよりも遥かに速いです。
ダウンフォースが使えないMotoGPはどうしてもコーナーが不利。それがタイムに現れているということだ。F1は現代では直線は一番速くはないし、むしろMotoGPやインディカーのほうが速い。
よく雑誌などで0-100km/h加速を競うことがあるが、レースカーではそもそもダウンフォースが不足した状態では駆動力を地面に伝えることができず、100km/hを超えないとフルスロットルで加速することができない。
F1の場合は0-100までは2.5s、100-200は1.5s程度と、この世界ではスピードが上がるほど加速が速くなってくるんだ。
日本だとSuperGTやスーパーフォーミュラが有名だよな。GT300でもGT3以上だし、GT500ともなるとLMP1より少し遅いぐらいのモンスターマシンなんだぜ!実は日本はかなりレース環境には恵まれた国なんだ。
参考までに、鈴鹿のラップタイムはスポーツカー代表のシビックタイプR (EK9型)の場合プロドライバーが乗って2分49秒程度、市販最速レベルとも言えるR35 GTRの改造車でも2分18秒程度。
レーシングカーと比べるとスーパーカーと言えどもどんぐりの背くらべ状態になってしまいます。F1に至ってはほぼ半分のタイムで、しかも300km以上に渡って何十周も連続してそのタイムを出すことができます。
実際にタイムを半分、つまりスピードを2倍にするためにはコーナリングGは4倍かかるため、これがF1が最速のコーナリングマシンと言われる所以です。
燃費
2021年現在、パワートレインの総合効率で見ても、エンジン単体の効率で見ても、F1のエンジンは最も優れたガソリンエンジンとなっています。代表的な省燃費エンジンの熱効率を観てみましょう。
- 乗用車ガソリンエンジン最高峰:41% (プリウス用)
- 商用車4サイクルディーゼルエンジン最高峰:50%
- 船舶用2サイクルディーゼルエンジン最高峰:55%超
- F1用ガソリンエンジン:50%超
さすがに船舶用の2サイクルディーゼルには劣ってしまいますが、ガソリンエンジンの中では圧倒的な省燃費性能で、燃費性能に特化した大型ディーゼルエンジンにも匹敵することが分かります。
それではレシプロエンジンよりも格段に効率に優れる (90%を超える)EVではどうでしょう。現在市販されている1000馬力超を発生可能な最速級のEV、テスラモデルS Plaid は100kWhの非常に大容量バッテリーを誇ります。
このバッテリーパックでF1と同等のパワー730kWを発生させ続けた場合、わずか8分間で満充電のバッテリーが空になってしまいます。
熱効率50%と言うと、まだ50%も改善の余地があるかのように思えるかもしれませんが、実際にはほとんど理論サイクル効率に近い値となっており、99%を超える燃焼効率や30MPaを超える超高圧燃焼技術が欠かせません。
回では、より具体的なエンジンの燃費の指標となるBMEP (Brake Mean Effective Pressure)と、CO2排出量に関わるg/kWh について説明したいと思います。そしてF1用エンジンの燃費の秘密に迫ります。
現代のF1のエンジンのすごいところは燃費性能に特化した超高効率ディーゼルエンジンに匹敵する燃費性能を実現しつつ、ガスタービン並の高密度のパワーウェイトレシオ (出力重量比)を実現している点だ。
F1マシンの基本構造
多くの技術が詰まったF1マシンですが、その中身は驚くほど単純です。複雑と言われるハイブリッドシステムもパワーユニットの中にスマートに収めれており、ほとんどドライバーの空間と燃料タンクしかないことが分かります。
前方にはドライバーを守り、空力にも重要な役割を果たす衝撃吸収構造があります。その後方にはドライバーが座るCFRPモノコック、ドライバーの真後ろにあるのが燃料タンクです。その後方にはエンジンがあります。エンジンは構造の一部も兼ねているため、実質的にはタイヤ-サスペンション-モノコック+エンジン+ギアボックスのみで車体を支えています。
また、一般的な車両と大きくことなる点は、ダウンフォースの存在です。自重よりも遥かに大きな空力荷重を受けるため、サスペンションは3~4tの車重を想定した強度剛性が必要です。
それではそれぞれの部分について見ていきましょう。
①CFRPモノコック・コックピット
ドライバーコックピットと燃料タンク、ECU等が収められる車体本体部分で、重量はわずか35kgです。時速300キロ以上で走るF1マシンの衝突時にドライバーの命を守るために、厳しい安全レギュレーションがあり、30t以上の荷重に耐える必要があります。ドライバーを守るコクピット部分がサバイバルセルと呼ばれ、クラッシュ時に破損した部品の侵入を防ぐためにケブラーライニングも施されています。コクピット周りは研究段階のものも含んだ、製造可能な最高強度のCFRP材が使用されます。例えば既に90年代には現在市販品の中では最高クラスの強度を誇るToray T1100に匹敵する材料が使われる等、航空機と比べてもワンランク高強度なものが使用されます。
コクピットの中は非常に狭く、シートはドライバーの体型から整形した専用品が使われます。現代ではピットがネットワークを通じて遠隔でマシンのセッティングを変更することが禁止されているため(テレメトリダウンリンクのみ)、レース中の様々な調整作業はドライバーが行う必要があります。
ステアリングには液晶ディスプレイやシフトパドルの他に無線通信ボタン、デフセッティング、ブレーキバランス、トラコン設定、燃調マップ選択、給水ボタン、DRSボタン、回生モードセレクタ、ピットレーン速度制限ボタン等など車体の設定を操作するスイッチ類が配置されています。
車体の重量増加やHalo導入には否定的な意見も多いですが、このような事故から無傷で帰ってこられるのも様々な安全対策の賜物と思わされます。
一般的なレーシングカーよりもF1の運転を難しくする要因として、ドライバーはコーナーに合わせてにブレーキバランスとデフのセッティングを操作をする必要があり、一周の間に10回以上変更を行うことも珍しくありません。
②パワーユニット
エンジンやギアボックス、ハイブリッドシステム等動力関係一式の機械をパッケージングしたものをパワーユニット (PU)と呼んでいます。ほとんどのチームではフロア下空力を優先した車体設計のため、PUに与えられた空間は小さく、車体後方にコンパクトに収まっています。
エンジンの燃焼室圧は30MPaを超え、またエンジンやギアボックスはストレスメンバーと呼ばれる構造を採用しており、エンジンそのものが車体を支える構造です。例えばヘッドカバー一つをとっても、シャシに剛結されるため、大きな荷重が掛かっても、カムジャーナルの変形が最小限に留められる構造になっています。
また、ギアボックスはリアサスペンションにリアウィング、エンジンからの熱など最も大きな応力がかかる部品でありながら、2万回転のエンジン出力軸とのアライメント変化は許されません。
重量はNAで95kg程度、ハイブリッドターボエンジンでは140kg~150kgほどです。PUは一台数十億円するため、同じ重さの金の塊よりも高価です。
パワーユニットの詳細については、次回で本格的にピックアップしていくのでお楽しみに!
③サスペンション・ダンパー
外から見える部分が車体を支えるサスペンションアーム、ダンパやスプリングは空気抵抗軽減とレバー比獲得のために車体内部に収められています。
スプリングは主にトーションバーとコイルスプリング、ダンパーは油圧、摩擦、マスダンパ等が組み合わされ、コースによって最適な減衰比に設定されます。調整対象としては、車体ピッチ、ヨー、ロールのストロークとレートので6自由度に対するセッティング範囲が必要です。またジオメトリ自体のセッティングもトー、キャスター、キャンバーレート、その他ロールバーとアンチスクワット機構等、実際のセッティングの自由度はかなり多く、なかなかシミュレーションだけでは当日のセットを決めることができません。F1とは言えど、走り込みが重要となります。
④アップライト・ブレーキ
アップライトとはサスペンションアームをハブに接続する部品です。大きな曲げモーメントと熱がかかる部品でありながら、重量がサスペンション性能を大きく左右します。後述する流力設計と極限まで剛性重量比が必要なため、設計者の軽量化への努力が見て取れる有機的で美しい形状のものが多いです。
カーボンブレーキローターは耐熱性に優れるカーボン繊維強化セラミクス材(CMC)が使用され、無数の冷却孔が開けられています。カーボンブレーキは高温でないと制動力を発揮できません。そのためただ冷却すれば良いものではなく、適切な温度に保つどいうことが非常に重要になります。この役割を担うのがアップライトとブレーキダクトです。ブレーキが吸収しなければいけないエネルギー量はエンジンの出力の5倍以上、つまり3500kW以上の放熱能力を有している必要があります。ビルの屋上等に設置されている巨大な冷却塔に匹敵する放熱量です。
わずか13インチのホイールの中には1000℃以上で動作するブレーキローター 、ホイールやハブの冷却用の流路、各種センサやワイヤリングの取り回しなど非常に複雑な構造になっていて、最も設計が難しい部品のうちの一つです。
⑤タイヤ・ホイール
車体と地面との唯一の接点はタイヤ、最も重要な部品とも言えます。長年ブリジストンとミシュランによるグリップ向上を目指した熾烈な開発競争が繰り広げられて来ましたが、2021年現在では開発が禁止されてしまっています。ピレリ製のワンメイクとなっているため、実質的にはホイールの開発競争となっています。
ホイールはマグネシウム製で、車体を支える他、タイヤの空気圧、ブレーキの温度維持や車体後方への流れの誘導などの重要な役割も担っています。そのため内部には冷却流路が形成されており、また表面には最適な放熱量が得られるような工夫が施されています。
ホイール本体を走行中に変形させるような仕組みは、禁止されているため、形状の作り込みのみでこれら機能を実現する必要があります。
⑥フロントウィング・スプリッタ・バージボード
フロントセクションの役割はダウンフォースと整流になります。サイドポッドとフロアにタイヤとサスペンションによって乱れた流れが行かないように、バージボード等によって避けるアプローチが一般的です。この当たりはレギュレーションや技術革新によって毎年様々なアプローチが取られていて、毎年が運営側のダウンフォース削減ルールと開発側の回復のイタチごっこです。
雨天や路面が荒れた状況の時は、普段公開されることのないマシンの流線が浮かび上がってくるため、各チームのアプローチが見て取れて興味深いものがあります。
多くのチームでは、専用風洞を24時間365日稼働させて開発に挑みます。市販車エンジニアからしたらなんとも羨ましい環境です(毎日稼働日のためなんともブラックとも言えます)。
いや、、、超絶ブラックだよ!!!!!
⑦サイドポッド・フロア
サイドポッド (ポンツーンとも) はリアセクションへの流れの整流、またラジエータ、インタークーラーへの空気導入の役割を持っています。これがないとフロア、リアディフューザーの効果は半減してしまいます。サイドポッドの中にはラジエータや後方には排気管等が位置し、加熱された空気を勢いよく噴出することでラジエーター空気抵抗を相殺するメレディス効果を狙った構造となっています。
フロアは車体下面のことで、車体の空力性能を決定する最重要部品です。近年では原則はフラットであることが求められていますが、翼面形状が許可される場合もあったり、また地面効果が許可されることもあり、レギュレーションによってまちまちです。運動性能に最も大きな影響を与えます。
フロアの底にはスキッドプレートと呼ばれる、地面と車体が接触する板があり、長年なんと伝統的な木製で作られていました。スキッドプレートの役割は車体接触時にサーキット路面を保護することです。2015年からは金属製でも路面への攻撃性が少ないことが立証され、チタンプレートに変わっています。F1の後方から良く出てくる派手な火花はスキッドプレートが削れる時に出てくるものです。
⑧ディフューザー・リアウィング
リアダウンフォースの大部分を生み出すのがリアディフューサーです。ウィングでもダウンフォースは生まれますが、ディフューザーが6割~7割とする設計が主流で、その理由は空力効率に優れるためです。リアウィングとリアディフューザーで車体全体のダウンフォースの7割以上を発生させているため、レギュレーションによって厳しい規制があります。あまり試行錯誤できる余裕がないため、車体各部と比べると意外とシンプルな構造に見えるかと思います。
かつては排気流を直接当てて流速を向上させるブローンディフューザーやダブルディフューザー、ウィングを失速させて直線速度を達成するための悪名高きFダクト等、様々なアイデアが登場しては禁止されてきました。
2022年からは、後続車のオーバーテイクを容易とするため、後方乱気流に対しても厳しい制限が設けられ、ますますダウンフォースを稼ぐのが難しくなっています。
マシンスピードの規制と開発予算の削減を名目に導入された様々な禁止項目は、結果的にはより開発費膨張の原因になっているという批判もあるんだ。ルールが緩ければ低予算でもアイデア次第で勝負することもできるんだが、、、
しかし来年からはオーバーテイクが増えて見応えが増えるといいのう。
⑨フロント・リア衝撃吸収構造
前後には衝撃吸収構造が設けられており、車体形状の一部を構成しています。また側方からの衝撃はサイドポンツーンがサバイバルセルを守る構造で、360°の衝突に対してドライバー、燃料タンクが守られています。
近年最も衝撃的な事故としては2020年のバーレーンGP。サバイバルセルが破損し燃料に引火、誰しもがドライバーはただでは済まないと思っていました。これほどの事故でも軽症で済んだのはほとんど奇跡かもしれません。
構造の理解には小林可夢偉も乗っていたザウバーの10年前のマシンを輪切りにしたモックアップの動画がおすすめです。エンジン位置の低さや各部の肉厚の薄さが見て取れます。 サバイバルセルやサスペンション等の安全に関わる部品を除くと、ほとんどの部品は軽量化のため安全率0.95で設計されます。レーシングカーがレースの途中や、ちょっとした拍子で壊れてしまうのはこのためです。
タービン材料を筆頭に、航空機開発には最先端の科学技術が投入され、最新最高の材料が生み出せれるのが産業界の常です。しかし航空機そのものは開発期間が10年以上と非常に長いため、いち早く新素材が実戦投入されるのは実はF1となっています。また複合材の構造解析、特に衝突時の非線形解析、ラミネートの変形破壊解析の分野では一日の長があります。そのため最先端の設計手法や材料を求めて行くと、意外にもF1マシンにたどり着くことがあったりするものです。
F1マシンに搭載されるすべてのコンポーネントは高強度軽量なだけでなく、固有値の作り込み、熱抵抗の作り込み、空力の作り込みが高次元で求められます。
物理現象の基本をしっかりと抑えなければ動作せず、誤魔化しが効かない点こそがエンジニアにとっては面白みがあると言えるのかもしれません。
新旧F1の変遷
F1はで約10年単位で技術革新が起きたり、あるいは大幅なレギュレーション改定が行われたり、その度にマシンの形がガラッと変わってきた歴史があります。大雑把に見ていくと、下のような流れがありますが、100年間の進化は自動車、そして機械工学そのもののの進歩を表していてて、なかなかに興味深いと思います。
1910~1930年代:戦前世代
まだF1は”レース専用の超高性能スポーツカー”だった時代。とてもいい時代。まだシャシダイナミクスの理論や解析手法も確立されていなかったため最適解が存在せず、多種多様なマシンがあったため、莫大な資金がなくても発想力に優れる設計やドライバーの腕で優勝をすることもできた。ロボコンのような楽しみがったのではないかと思います。
レースがお金持ちの道楽だった古き良き時代はここまでだ。戦時中の飛躍的な技術革新によって変身してしまったF1は、戦後各メーカーが凌ぎを削るトップカテゴリへと変わっていくのだ。
1940~50年代:フォーミュラー化時代
モノコック構造とエンジンストレスメンバー、ミッドシップレイアウトの普及によって、現代の基本レイアウトが確立された。手計算ベースのシャシダイナミクス理論に基づいた開発が行われるようになり、どのチームも最適化にたどり着いてしまった。このあたりから乗用車と段々と違う乗り物になり始めた。
1960年代:大パワー化/空力時代
大排気量化、スーパーチャージャーの普及により500馬力を超えるパワーを発揮し、また空力開発が本格化。近代的なF1の基本形が誕生した。12気筒エンジンの普及もこの時代。頻繁なレギュレーション変更が発生したため、非常に多種多様なマシンがあるのが特徴。この時代はレシプロ戦闘機を彷彿とさせるような美しいマシンも多く、コレクターにも非常に人気です。ホンダが参戦をしたのも60年代。
1970年代:グランドエフェクト時代
ターボエンジンの登場、グランドエフェクトの登場により飛躍的にマシンが速くなり、最先端の航空技術も惜しみなく投入されるように。この時代から各メーカーは莫大な開発費をかけ、マシンの進化速度が一気に加速した。同時に速すぎるマシンにドライバーの肉体がついて行けないため、様々な性能規制レギュレーションが投入されはじめた。強すぎるダウンフォースに対応するためサスペンションは皆無に等しく、”鉄人にしか乗れない”、なんて言われたりもしていた。ニキ・ラウダやジャッキー・スチュワートといった怪人を生み出した。空力設計手法が確立されはじめ、様々なデザインが試された時期でもあり、写真のような奇抜な6輪車両を生み出したのもこの時代。
1980年代後半:カーボンモノコック・ターボ全盛期
カーボンモノコックシャシ、1.5Lターボエンジン、最先端の高度な空力設計、アクティブサスペンション等、現代では禁止されてしまった多くの闇技術が開発され、機械技術のひとつの頂点へ。懐古主義者にとっては今でもこの時代が最高だったと評する者もいる。メーカー間の開発競争が激しく10年間の間にF1は史上最速へと変化を遂げた。アイルトン・セナ、ナイジェル・マンセル、ネルソン・ピケ、アラン・プロストを始め、数々の名ドライバー・名勝負を生んだF1の黄金時代です。
世界中を熱狂させたセナプロ最強タグが駆ったマクラーレン・ホンダMP4/4もこの時代だ。プロドライバーの頂点に君臨するF1ドライバーですら、1500馬力のエンジンを”踏み切る”ことができるのは一握り、神の領域とも言われたぐらいだ。
興味がある方は ”Senna Monaco”などで調べると当時のレースの過酷さが分かると思う。(規約の関係で埋め込み動画が禁止されているため、すみません)
1990年代後半:安全規則・高回転型NAエンジン時代:
多くの人にとって、F1といえばコレ!1990年には速すぎるターボが禁止され、高回転型NAエンジンが復活。90年代はミカ・ハッキネンやミハエル・シューマッハ等殿堂入り名ドライバーを生み出した。ハイスピードかつ誰が優勝してもおかしくないという接戦が続き、非常に見応えのあるこれまた一つの黄金時代。そしてセナの運命の1994年サンマリノグランプリも90年代の出来事です。この事故を堺に様々安全レギュレーションの変更やドライビングスタイルの変化があり、現代にも通じる安全性、戦略性を重視したF1が誕生したようにも思います。シューマッハ無双時代のはじまりも90年代の終わり頃からでした。
2000年代:ドライバー/戦略の時代
前半はシューマッハ無双時代。しかし2005年、アロンソの登場によってシューマッハの牙城は崩れ、以後キミ・ライコネンやセバスチャン・ベッテル、ルイス・ハミルトンら歴史的ドライバーの登場によって再び三つ巴に。マシンは地味ながら着実に空力の進化を続けていたが、主な見どころはドライバーのバトル。歴史に残る熱いバトルが数多く繰り広げられた。エンジンは2.4Lとなりパワーは低下したものの、更に発達した空力技術とエンジンの高回転化によってタイムは過去最速になった。NAエンジン同士パワー差は少なく、チーム戦略やドライバー技量で逆転することも可能だったため、非常に見応えがあった。
当時はまだ一部の研究や航空機でしか活用されていなかったフルスケールCFDを駆使したデザインには、なんて先進的な設計なんだ、と感心したものた。しかしたった15年ほどでもう古いデザインだなって感じてしまうのが恐ろしいものだのう、、、
2010年代:新世代ターボ・ハイブリッドパワートレイン時代
2014年に再びターボが帰ってきた。メルセデス無双時代。同時に従来のマイルドアシストハイブリッドであるKERSに変わり、本格的なハイブリッドシステムの導入が開始された。燃料総量規制による熱効率の追求やハイブリッドシステムの協調制御の開発のため、エンジン開発には多大な費用と技術的に高難易度な開発が要求され、トップチーム以外は開発競争から脱落する結果となってしまった。チーム間のマシン性能差が大きいためドライバーの技量だけでは勝てないことも多く、中にはつまらなくなってしまったと評する人もいる。しかしエンジニアとしては非常に興味深い構成であることには変わりない。
ハイブリッドが注目されがちだが、実は空力面の進化も凄まじく、パワーは少なくても実際のタイムはどんどん速くなっているんだ
2020年代~??
強すぎるトップチームを引きずり下ろし、競技性を復活させるべく、2023年から新レギュレーションになるらしい。2020年はまたしてもメルセデス/ハミルトンの優勝を許してしまったレッドブル。しかし今年は順調だ!果たしてこれからの時代の覇権を握るのは誰だ!?お願いだ、レッドブル!あんたが今ここで倒れたら、日本のみんなとの約束はどうなっちゃうの!?予算はまだ残ってる。ここを耐えればメルセデスに勝てるんだから!
次回「マックス、優勝す」。デュエルスタンバイ!
ゼェゼェ、、、ハァハァ、、、つ、つい熱くなってしまった。。。
まあまあ、お茶でも飲んで、そんな一気に喋らなくてもいいのに(笑)。まさかハンさん遊戯王オタクだったなんてね、、、
ダウンフォースも少ない。電子デバイスもない。3ペダルマニュアルシフトで1500馬力。80年代~90年代が凄すぎてよく運転していたなって思うぜ、、、
多くのエンジニアがF1にアツくなるのは、単なるレースマニアだからというだけではありません。レギュレーションの隙をついたエンジニアリング的に面白い発想や、色々な分野に応用ができる先端技術が詰まっていて、とても良い刺激になるからです。そしてレースでは順位という明確な結果で設計の本当の優秀さが分かるため、エンジニア冥利に尽きるというものです。
今回の記事では70年代~80年代にF1を圧倒したターボエンジン時代と2010年代以降の”燃費ターボ”時代について触れています。
タイヤや空力、サスペンション技術が向上した現在、タイム自体は当時よりも速くなりましたが、ピークパワーは未だに80年代のF1が最大を誇ります。
外観は似て、、、いえ、外観もあまり似ていませんが、レシプロエンジンを搭載し、タイヤが4本ついているという点ぐらいしか乗用車とは共通点がなく、トヨタ自動車のような名だたる自動車メーカーでも一度の優勝も挙げることができなかったのはそのためです。
自動車技術の向上、という意味ではル・マンやWECのようなカテゴリのほうが相乗効果があるのかもしれないね。
もしかしたら君たちが生きている間にF1はどの工業製品にも相乗効果が得られないニッチでハイコストな道楽になってしまい、そのうち消えてしまう可能性すらあるんだ。。。
ターボエンジンとは
エンジンがパワーを発生させる仕組み
どれだけ高性能なエンジンであっても、燃料流量以上のパワーは発生させられません。そして燃料は良好な燃焼が得られる空気量が決まっているため、事実上は空気量=パワーと言っても過言ではありません。
① \(パワー = 燃料流量 \times 熱効率 \)
② \( 燃料流量 \times A/F= 空気流量 \)
③ \( A/F = 一定 \)
④ \( パワー \propto 熱効率 \)
⑤ \( パワー \propto 空気流量 \)
⑥ \( 空気流量 = 排気量 \times 回転数 \times 圧力 \)
A/Fはガソリンの場合理論混合比で14.7 (λ=1)、一般的には11~18 (リーンバーンエンジン)程度で、最大出力点では大きくは変えられないため、ほぼ熱効率と空気流量でパワーが決まることが分かるかと思います。
そして空気流量を増やすためには、エンジン排気量を増やすか、回転数を上げるか、過給等により吸い込み圧力を増やすしかありません。つまり基本的にはパワーを稼ぐためにはこの3通りの方法しかありません。
大排気量は最も簡単なパワーを得る手段ですが、重量という大きなペナルティを背負うことになってしまいます。レースカーが高回転、あるいはハイブーストで運転するのはこのためです。
2サイクル機関と4サイクル機関
レシプロエンジンには主に4サイクル機関、通称4ストと2サイクル機関、通称2ストがあります。
4サイクルはその名の通り、1.吸気、2.圧縮・点火、3.膨張、4.排気の4つの工程を繰り返しながら動力を生み出します。クランクシャフトが2回転毎に点火するため、一回は何も仕事をしていない (厳密には空気の圧縮で仕事は奪われマイナスの仕事をしている) 工程が存在します。
2サイクルの場合は吸気、点火、排気を同じ工程で行うことで、クランクシャフトの一回転につき一回点火を行います。同じ回転数の場合点火頻度が二倍になるため、非常に大きなパワーを発生させることができます。一見この方式は有利に見えますが、一部吸気が漏れ出してしまうこと (未然ガスが漏れ出ること)、NAでは充填効率が悪く熱効率が悪くなること、サイドポートの耐久性の問題、冷却の問題等があり、その多くが姿を消してしまいました。小型エンジンの大多数は4サイクル機関が主流になっており、一部のバイクやカートといった高出力が必要な用途に限られています。
しかし例外は、船舶の世界ではディーゼルエンジンたのめ未然ガスの問題は起きず、また熱効率とパワーを高める手段として大型機関では2サイクルが主流となっています。高効率ハイパワーという利点を活かしきった船舶用エンジンはF1エンジンとは方向性は違うものの、内燃機関の一つの頂点とも言えます。大型2サイクルマリンディーゼルは独自の世界があり、非常に興味深い分野なので、また機会があれば紹介をしたいと思います。
(NA)自然吸気エンジン
NAエンジン (Naturally Aspirated Engine)とは”自然”に”吸気”する普通のエンジンです。教科書に出てくるような最もベーシックなやつですね。前項の4サイクル機関の構造になっています。(慣性過給等を除けば)通常は1気圧以上で吸い込むこはできないため、パワーを稼ぐためには回転数を上げて、吸い込み空気量を増やすしかありません。
- 構造が簡素で修理が容易
- エンジン負荷が低く、軽量化が容易なため、回転数を上げやすい
- トルクの出方が安定しているため、コントロールがしやすい、応答性に優れる
- 体積効率に優れる
- 上記理由により、パワーの低さの割にはサーキットでのタイムを出しやすい
- 絶対的なパワーでターボエンジンに劣る
- 低回転域では空気量が不足するため、トルクが細い
- 大パワーを発生させるためには、大排気量あるいは超高回転化が必要となる高価になりがち
- 定格点が狭く、大パワーと省燃費の両立が難しい
このように、エンジン単体ではあまりパワーは出せなくとも、シンプルな構造や軽量を活かした総合力で性能を確保するNAエンジンは自然な特性が魅力で、コントロール性と相まって未だバイクやスポーツカーの世界では人気があります。
バイクなんかだとそもそもパワーは元々十分だし、どちらかというとトラクションやコントロール性のほうが重要だよね。
何を隠そう、、、私は熱心なNA信者です。バイクやタイプR、フラットプレーンV8にV12気筒エンジン。あの感触に勝るものはありませんよね、、、
でも熱力学的な観点から見ると、残念ながら燃費もパワーもターボに軍配が上がってしまうのも事実です。
スーパーチャージャー・排気タービン
内燃機関が誕生して間もなく、強制的に空気を送り込んでパワーを増やそうという発想はありました。初期の過給エンジンはスーパーチャージャと呼ばれる方式で、エンジンの軸から駆動される遠心コンプレッサで空気を圧縮し、燃焼室に送り込んでいます。
“過給”や”チャージ”の語源はここから来ています。
スーパーチャージャーの搭載によってパワーは向上する一方で、エンジンの動力の一部はコンプレッサを駆動するために使われてしまい、燃費が悪化するという問題がありました。そこで誕生したのが、排気タービン過給器、ターボチャージャーです。ターボ過給器の誕生によって排気エネルギーを回収し、コンプレッサを駆動することができるようになりました。原理としては同時期に誕生したガスタービンと同じです。また必要な分だけ段数を増やすこともできます。乗用車用はスペースの制限もあるため一般的には単段か2段が主流です。
ターボチャージャーがスーパーチャージャーと根本的に異なる点は、排気タービンに流れる駆動ガスは、自身が圧縮したコンプレッサの空気の燃焼ガスを動力源としている点です。つまり空気流量に合わせて燃料流量を増やし続ければ、無限大にパワーが出せてしまいます。
もちろんこれは理論上の話であって、現実にはターボやエンジン本体が壊れてしまいます。ただし初期のターボは信頼性の問題や、一定の回転数でしか性能を発揮できないなどの問題点も多く、自動車に搭載できるようになるには20年の年月を要するのでした。。。
- 理論上は無限大にパワーが発生させられる、NAでは不可能な爆発的な加速が可能
- ブーストを上げれば、比較的小排気量でも大パワーが得られ、しかも省燃費も達成可能
- 比較的少額のチューニング費用でパワーを増やせる
- ブーストがかかってきた時の加速感は独特で、中毒になる人もいる
- 大パワーを手に入れるためにはターボラグが発生し、コントロールが難しい
- そのためパワーの割にはサーキットでタイムが出ないこともある
- オイルの劣化が早く、頻繁なメンテナンスが必要。また複雑な構造のため修理費用が高い
一度タービン交換のチューニングカーに乗ってしまったら、もうNAへは戻れねえよな。俺はサーキット行くなら500馬力未満の車なんてダルくて乗れないぜ
高回転型NAエンジンが職人の手で作られた精巧な機械式時計だとすれば、ターボエンジンはまさに”ジェットエンジン”です。パワーを追求し続けたターボエンジンの成れの果てを観てみましょう。世の中には更に過給圧を上げ、1万馬力を超えるエンジンも存在します。
F1への採用
このようなパワー面での有利性を見逃すはずもなく、レギュレーションの解禁と共にF1でも70年代からターボエンジンが使用されはじめました。その後変遷もあり、80年代にはリッター1000馬力を達成するに至り、”新旧F1の変遷”のような歴史を辿ってきました。
2021年現在では再び1.6Lのターボエンジンを採用していますが、燃料の流量規制があるためブースト圧は5.0bar程度、また回転数は15000rpmに制限されています。パワーを出したければ熱効率を改善するしかなく、かつてのような異常なパワーを出すのは難しくなっています。
その一方で過給器はより多くの空気をエンジンに送り込み、よりリーンな燃焼 (高いA/F)を実現する手段として使われています。マツダのSkyactivエンジンなどに搭載されるスーパーチャージャーに近い使い方です。
近年のF1のエンジンの燃費性能は、どちらかと燃料総量規制が理由で発展してきたんだ。すべてのチームが同じ距離を同じ量の燃料で走る。
より速く走るためには熱効率を改善する以外の方法はなく、あらゆるガソリンエンジンを凌駕し、ディーゼルエンジンに匹敵する燃費を手に入れてしまったF1のエンジンはレースに勝つための執念の産物なんだ。
現代のハイブリッドパワートレインシステム
燃費のイメージがありますが、加速の時にはモーターのアシストが得られ、減速時はエネルギーを回収できるハイブリッドは急激な加減速をするレースの世界でも有用です。特にF1ではモーターの出力はエンジンの15%程度のため大きなバッテリーを必要とせず、ホームストレートやオーバーテイク時に瞬発力を発揮する目的で使われます。
もちろんハイブリッドシステムは複雑な分重量がかさむため、すべてのカテゴリで採用できるものではありません。
しかしF1に限っては昔のような500kg台のマシンならまだしも、700kg以上の最低重量が決められている現代ではウェイトハンデよりも得られるパワーのほうが大きく、すべてのチームが似たような構成のものを導入しています。
世の中にはモーターの出力がエンジンの半分、下手すれば同等以上、というスーパーカーもあるが、それらはバッテリーを消費しながらのアシストのため、毎周フルパワーが使えるというわけではないんだ。F1やル・マン等のレーシングカー用のハイブリッドユニットは50~60周に渡って連続的にアシストが使え、バッテリー搭載量も最小限で済むところが他のハイブリッドとは一線を画すところだ。
ハイブリッドシステムの強調制御はモーターだけでもかなり難しく、長い年月の開発とノウハウが必要です。しかしF1ではMGU-K(アシストモーター)に加えてMGU-Hも搭載されているため、更に制御が難しくなります。F1のパワーユニットの構成は下図のようになっています。
- ICE (Internal Combustion Engine,エンジン本体): 出力の源となるエンジン本体。基本構造は一般的なガソリンエンジンと同じですが、ドライサンプやエアバルブ等は相違点。
- ギアボックス: エンジンの出力をドライブシャフトに伝達し、車体も支える部分。高い信頼性と出力ロス低減の両立が求められる。
- MGU-K: エンジンとギアで接続されたモーター発電機によって、加速時はアシスト、減速時はエネルギーの回収を行う。出力は120kW程度と決められていて、構成は一般的なパラレルハイブリッドシステムと同じ。
- MGU-H:コンプレッサ動力をアシストしたり、タービン動力を回収するモータージェネレータ。エンジンにとってのMGU-Kをターボチャージャーに適用した装置。非常に複雑なため、F1エンジンで最も高価な部品。
- コンプレッサ: ターボコンプレッサー本体。5bar程度まで空気を圧縮してエンジンに送り込む。
- タービン: 排気タービン。コンプレッサーの駆動動力を発生させる。
- ウェストゲートバルブ: 過剰な排気ガスを逃がしてターボ回転数を制御するためのバルブ。MGU-Hでもタービン動力が吸収しきれない場合、排圧を下げたい場合など多様な使い方ができる。搭載されない場合もある。
- リサーキュレーションバルブ: 急激なアクセルオフでコンプレッササージを防ぐための再循環アンチサージバルブ。
- インタークーラー: コンプレッサ出口空気は高温のため、熱効率改善を目的にエンジン導入前に冷却される。水冷タイプを採用するチームいる。
- ラジエーター: 冷却水の温度を下げるための熱交換器。
- オイルポンプ: エンジン本体の潤滑、冷却に加え、MGU-Hやターボ軸受、MGU-K等各部の潤滑、冷却に欠かせないオイル用のポンプ。スカベンジングポンプと一体となっているものが多い。
- ウォーターポンプ: 冷却水用のポンプ
- 吸気弁: エンジン吸気量を制御するためのバルブ。乗用車との違いは、ロータリーバルブが主流。コンプレッサ出口に設置する場合もあるが、サージとの兼ね合い。
- ガイドベーン:コンプレッサ入り口出口、タービン入り口には回転数に応じた最適出口角や出力調整の目的で可変式のガイドベーンが搭載される。
- バッテリー・インバータ: MGU-H、MGU-Kの動力源のためのバッテリーとパワエレコンポーネント。出力密度を高めるため、乗用車用の400Vシステムとは異なり、900V~1000Vのシステムを採用する。
- エアフィルタ・インテイク:ドライバーの頭の上に見える吸気口。燃焼に必要な空気量はインテイク面積と速度から大体推定ができ、かなり大きな開口面積を持つことが分かる。
- その他補機類:予備ポンプやオイルタンク、エアセパレータ、ブローバイリターン等など、図には存在しない様々な補機類が存在する。エンジン動力を消費する装置としては大部分が上記に上げたものとなるため、システム観点からは除外する。
ICEの最高回転数は1万5000回転に制限され、昔の2万回転超えに比べれば回転数は低めになっていますが、圧縮比を重視したロングストロークのためピストンスピード自体は40m/sを超えます。
MGU-H、コンプレッサー、タービンは同軸上、最大15万回転で回ります。重量は10kgにも満たない小型なものですが、出力は150~250kW程度、エンジンパワーを決定する重要な部品です。タービン、MGU-H動力が非常に大きいためエンジンと直結こそしていないものの、事実上のターボコンパンドエンジンに近い構成とも言えます。
バッテリーの充放電は一周あたり4MJに制限され、アシストを上手く活用するタイミングを見極めるのもドライバーに求められる能力です。
複雑すぎるパワーユニットは予算の膨張や新規参入の大きな障壁となっていて、2026年からはMGU-Hが廃止されることになってしまった。
レースファンとしてはマシン差が減少する可能性もあるため、大歓迎だがエンジニアとしてはちょっと寂しいものがあるのう。
次回予告
本日も最後まで読んで頂きありがとうございました!ターボエンジンのポテンシャル、そしてF1エンジンの性能について、イメージが掴んで頂けたでしょうか?もしかしたら既に知っているという方にとっては入門的な内容であったかもしれませんが、
そんな車オタクのキミたちには2600馬力のバイパーを観てもらえただけで満足だぜ!
今回はりゅうたノリノリだったねえ、ほんと脳筋なんだから、、、
いよいよ次回からはF1のパワー ユニット の仕組みとエンジンの性能の秘訣、そして具体的にどれぐらいのエネルギー効率が発揮されるのかに迫って行きたいと思います。
一回で書こうと思っていたのですが、”F1省燃費”というタイトルで導入する以上、紹介パートが長くなってしまって分割して分けたのは内緒です、、、
計算編:(2/3)
エンジンの詳細:(3/3)
参考・クレジット
各サーキットのタイム参考:https://fastestlaps.com/
各画像の引用元:
https://daydaynews.cc/en/car/960712.html
https://car.motor-fan.jp/tech/10009548
https://jp.motorsport.com/f1/news/f1-power-unit-rules-too-complex-for-new-entrants-richards/4799433/
https://f1-motorsports-gp.com/
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