ターボ機械

【ターボコンパウンドエンジン】The Turbo-Compound Engine

近年の研究と復興の兆し

2010年代に入り、ハイブリッド車の普及、電動化が進む中、ますます旧来の方式のパワートレインは消えゆくかのように思われました。しかし近年の燃費要求の高まりや電動化技術、制御技術の向上により実はターボコンパウンドは復活の兆しを見せ始めています。

近年の採用例

ハイブリッドパワートレイン

今は新車販売台数の半分以上を占めるようになったハイブリッドパワートレイン。電動ターボコンパウンドとはすごく相性が良く、電動コンプレッサ、回収タービンと組み合わせることでさらなる効率アップが可能です。

特に電動コンプレッサについては、駆動輪を直接駆動するよりも1/5以下の動力でブースト圧、空気流量を増やすことができるため、少ない動力で瞬間的なパワーを得るのには最適な方法です。しかもタービン駆動と異なり制御が自由にできるため、燃費面でも有利になります。

15000rpmまで回り切るF1のエンジンも、通常のハイブリッドシステムだけではここまでのパワーを出すことはできません。電動アシストコンプレッサーの力によってタービン以上の動力で空気を送り込み、爆発的なパワーを発生させているのです。
電動コンプレッサについてもう少し見てみましょう。

電動コンパウンド

2014年から始まったF1用ターボエンジンは従来からあったKERSハイブリッドシステム(MGU-K)に加えターボチャージャーをモーターでアシストするMGU-Hが最大の特徴です。低速域ではパワーが得られないターボの弱点を補い、またタービンパワーが余っている時にはエネルギー回生もすることができ、エンジンシステムの完成形の一つと言えます。

このシステムの欠点は開発難易度で、ただでさえ難しい協調制御がより複雑になってしまいました。MGU-Hを採用した2014年シーズンのエンジンは史上最高のパワーと燃費(単体熱効率で50%以上)を兼ね備えたエンジンであったものの、コストダウンの圧力が押し寄せ、2026年に廃止が決まってしまったのが残念なところです。

同様の方式でやや異なるコンセプトがル・マンLMP1のポルシェ919で使われた並列タービン方式です。ターボ本体に電動機を搭載する代わりに、発電用の専用タービンを設け、役割を分担することでそれぞれの流量を必要に応じて自由に設定することができます。また各タービンが単段のため排圧を低く保つことが可能です。

ブレーキングのみにおいて発電ができる一般的なハイブリッドシステムと異なり、加速時もすべての余剰エネルギーを回収することができ効率に優れ、LMP1車両で最大のエネルギー回収量とルマン優勝を実現しました。

自動車用ではF1が初めてであるものの、同様の方式は船舶用エンジンでは使用例も少なくありません。

F1のエンジンについて書いた記事はこちらからもどうぞ:

ディーゼルエンジン

冒頭で紹介の通り、海上の分野ではコンプレッサの駆動、タービンエネルギーの回収の双方で電動コンパウンドが既に普及しつつあります。ターボコンパウンドが復活を遂げているもうひとつの分野は陸送です。ターボチャージャーが広く普及して生産コストが下がったこと、燃費要求が厳しくなったことが原因で高コストをかけてもエンジンの性能が重視されるようになりました。

欧州メーカーを中心に大型トラックや定置型エンジン向けにはターボコンパウンドのラインナップが用意されています。これらのほとんどはターボチャージャー・動力タービン方式です。特にトレーラートラックは長距離を一定速度で走り続けるため(加減速でしか恩恵が得られない)ハイブリッド化をしてもあまり燃費改善効果が得られず、機関単体での熱効率が求められるため、海外では一定の人気がある方式です。

volvo turboshaft

理論上は良いけど製品化は、、、というコンセプトだと思ってたけど、欧州では実際に走っているんだ。へぇ~~~

ドローン用パワープラント*

最近人気が高まりつつある中大型ドローン用のパワープラントですが、特に重要視されるのが、ドローンの飛行時間を延ばすためのパワープラントの出力重量比と燃費です。

軽量化と高出力化を実現するための一つの手法が、過給レシプロエンジンの採用です。ターボチャージャーをはじめとした過給機を搭載したドローン用エンジンの代表例としては川崎重工製の回転翼ドローン「K-RACER」や固定翼ドローン等があります。H2Rスーパーバイクのエンジンをベースとしたスーパーチャージャー過給エンジンが採用されています。

ここからより高出力を目指すとなるとターボシャフトエンジン、と行きたいところですが、コストや燃費面 (ガスタービンは大型化をしないと燃費改善が難しい場合が多いため) から延長線上には動力回収タービンも選択肢に入ってきます。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01537/00749/

実はこのような特性に着目して、小型の回転翼機用のエンジンの研究を行っていたのがNASAでした。本記事のメイントピックでもあるので、のちほど紹介をしたいと思います!

新しいタイプのエンジン

ニッチながら燃焼室自体が新しいコンセプトのエンジンも誕生しつつあります。ヘッドを有さず、2つのクランクシャフト、2つのピストンが1セットとなって燃焼室を形成する対向ピストンエンジンです。中でも量産を前提として登場し、業界に衝撃を与えたカミンズ製のACEエンジンは次期MBTのエイブラムズXへ採用されることとなっています。

ACEはサイクルの全域が正圧で動作するハイパーバーエンジンでスーパーチャージャーとターボチャージャーの双方を備えます。14.3Lながら2700Nm以上のトルクを発生し、50%以上の熱効率を発揮する、パワー/燃費共に最高峰のエンジンと言えます。

多段膨張を用いる代わりに、通常の二倍のピストンストロークを確保することで大きな膨張比を実現しています。またヘッドの冷却損失が存在しないため、サイクル効率だけでなく損失の少なさでも優れています。

この方式は吸排気ポートの流れの制約上、基本的には過給エンジンであることが前提になります。すなわち、過給コンプレッサをほぼ必ず装着しているため、排気には余剰圧力があり、タービンによる動力回収のポテンシャルがあります。

対向ピストンエンジン自体は何十年も昔から電車や航空機、潜水艦など一部のニッチな用途で使われてきたものの、メジャーになることはなく、最近再び注目を集めているのは嬉しい知らせです。

動力タービンの魅力は単体での特性ではなくて、このような様々なコンセプトの内燃機関を組み合わせることで、相乗効果が得られるところです。
温度、圧力が余っていれば、タービンをつけよう。
これがエンジン屋さんの基本思想です。

パワープラント

NASA コンパウンドサイクルエンジン

近年ドローン用の動力源として注目を集めているパワープラント向けにもターボコンパウンド方式は最適と言われていますがパワープラントシステムの構成としては、発電用エンジンと駆動用モーターが独立したシリーズ・ハイブリッド方式が基本です。長年船舶やディーゼル機関車では採用されてきた方式ですが近年ではnote e-powerのように自動車でも採用が進み、ドローン向けが追従しています。

パワープラントにはレシプロエンジンからガスタービン、ロータリーエンジンまで様々な方式がありますが、求められる要件は低燃費と軽量である点は変わりません。

ここでは昔の面白い忘れ去られた研究を紹介したいと思います。当時はヘリコプターを想定していて、量産されることがありませんでしたが、現代ではドローン向けに最適なパワープラントの一つかもしれません!

NASA Compound Cycle Engine Programとは、コンパウンドエンジンが最も下火だった80年代にNASAが回転翼機向けにコンパウンドエンジンの利点に再び着目し、1000馬力級の回転翼機エンジンの研究成果をまとめたものです。このような要件で研究は進められました。

  1. 当時最新型のディーゼルエンジン並みに低燃費であること
  2. ターボシャフトエンジンに匹敵する出力重量比
  3. 低メンテナンス、低生産コスト

通常はある程度設計が進んだエンジンに対して最適なタービンを設計する、あるいは両者を同時に設計するのに対し、既存のタービンエンジンに最適な容積型機関及び燃焼器を開発するといったターボ屋さんが嬉しい、ターボに優しい設計手法で作られたのがこのエンジンの最大の特徴です。

この図からも分かる通り、従来のレシプロエンジンと比べてターボマシナリーの占める容積が非常に大きいことが分かります。これは軸出力の実に3割をタービンで賄う設計で、コンプレッサ出力も含めると、ピストン以上の動力をタービンで発生していることから、真の意味での”ターボエンジン”と呼べるでしょう。

もはやここまでくると、ターボシャフトエンジンのほうが優れるのではないか、という考え方も出てきますが、重量物に過ぎないピストンを敢えて使うのにはいくつか理由があります。

  • タービンのみで得られる膨張比には限界があり、効率を稼ぐためには多段化 (=コスト増) が必要になること。
  • 容積型機関は単段でも10以上の膨張比を容易に達成でき、単段容積効率に優れること。
  • タービン単体では耐熱温度(最新のものでも1600~1700°C以下。無冷却タービンの場合は1200°C以下)の制約から、希薄燃焼が求められ、熱効率が低下する要因となってしまいます。これに対して容積型のレシプロエンジンでは間欠サイクルのため、より高い (2500°C) 温度でも燃焼が可能です。

このようなタービン機関の弱点を補うべく、タービン入口温度低減と膨張比確保のために容積型の”一段目”が採用されています。タービンにとってはこの上ない理想的な使われ方と言えます。

より細かい要件としては、下記のようなものが挙げられています。

  1. 30年前で途絶えてしまったNomadの技術を再建し、0.33 lb/hp-hrより優れる燃費性能を実現した史上最高効率の航空機用エンジンを作ること。
  2. 本エンジンの搭載により、従来のターボシャフトエンジンを搭載するヘリコプターに比べ搭載燃料の40%低減、あるいは50%の航続距離の延長を実現すること。

また、サイクルでは下記のようなものが検討されました。

  • エンジン設計点
  • 燃焼室形状
  • ターボサイジング
  • 2ストローク及び4ストローク型
  • インタークーラーの有無及び容量
  • 排気スカベンジング方式 (ループ、ユニフロー)
  • ターボチャージャー方式
  • コンパウンドタービン方式
  • 重量積算手法の開発
  • 各測温技術
  • シリンダ壁摩耗計測技術
  • 等様々な要素技術

つまり、この研究ではタービンや燃焼器だけでなく、空間的な配置も含めてエンジンサイクルのすべてについてのシステム検討が行われている上、エンジン評価のための様々な試験方法も考案されています。レシプロエンジン屋さんならば一度は目を通しておきたい資料です。

最終成果としては、部分負荷での燃費、重量の目標の達成ができず量産は中断されてしまいました。しかし結論では下記のように述べられています。

“本研究により、コンパウンドエンジンサイクルは極めて高いポテンシャルを有するものの、現在ではトライボロジーを筆頭にまだ内燃機関の要素技術の十分な研究が不足しており、実用化のためには産業界からの出資や大学等研究機関のより広い理解と参加が必要である。”

管理人による希望的解釈

勝手に解釈してしまうと、このように主張しているように思えてなりません!!!(あくまで勝手に都合のいい解釈をしているだけです。)

このように、従来のエンジンでは達成不可能な省燃費性能が得られる、大きなポテンシャルを秘めたエンジンであることが分かります。

このエンジンの最大の敗因は、重量的に不利なディーゼル燃焼器を用いてしまった点にありました。
また、材料的な限界等から規定耐久性を実現できるエンジン回転数(ピストン速度=15m/s)が非常に低く、現代の水準からすると低性能なブロックとなってしまっています。

当時はガソリンはまだリッチ燃焼しか実用化できておらず、このような装置で使うのには不向き、かつ燃費も劣るため検討対象ともされなかったのです。
現代の電動化技術とガソリンリーンバーンエンジンの燃焼器を用いれば、目標値も達成可能であると思います。

理想形

さて、ここまでで様々なタイプのエンジンが登場しましたが、仮にコスト度外視で最高のサイクル熱効率を目指すとどのようになるのでしょうか?

F1とLMPのいいところ取りをすると、最適なU/C0を実現するため、圧力比を回転数に応じて一定に保つ並列式のタービンを採用。またコンプレッサ側は効率に優れ、かつ負荷分担が自由に変えられる多段式が有利です。いずれもクランクシャフトに接続したスーパーチャージャー方式になります。さらに、タービンもインペラも必要に応じて段数を増やすことも可能です。

電動方式最大のメリットはタービン動力とインペラ必要動力が一致していなくても、バッテリーに貯蔵ができる点です。一定のP-Qでないと効率が発揮できないターボコンプレッサとは非常に良い組み合わせになります。

どこかで見たことがありませんか?実はこの形式、70年前当時のものを多段化、電動化しただけのものです!大昔に既に解決されていたのですね。当時のP&Wの技術者やDARPA、NASAのCCEの研究者には頭が下がるばかりです。

圧力比としては、これ以上のエンタルピ回収は困難です。残された廃熱を更に回収するためにHRSG等の熱交換方式のランキンサイクル機関を追加すれば70%を超えることも可能です。

しかしそれでも残念ながらこのあたりが限界です。80%以上の効率を達成できる燃料電池には及びません。そして、あまりにも高コストで作られることはないでしょう。。。
当時は先進的過ぎて定着しなかった機械にはダ・ビンチの発明品のような魅力があるとともに、現代の技術で復活をさせたいと思ってしまうのはエンジニアの悪い癖かもしれません。。。


いえ、ロマンの塊です!

最後に

時代は電動化、内燃機関はオワコン。そんな声も聞こえてくる時代ですが、単一の方式ですべての課題を解決するのは難しく、当面は内燃機関は残ることでしょう。

そんな中でも熱力学的には効率に優れる多段膨張、ターボコンパウンド方式。本日はそのニッチなエンジンについて少しでも知ってもらえたらなと思いピックアップしてみました。機械オタクとしては、ニッチな分野で生き続けてほしいと思うばかりです。

本日もありがとうございました!また次回お会いしましょう

引用

https://oldmachinepress.com/2019/08/05/napier-nomad-compound-aircraft-engine/

https://www.enginehistory.org/Piston/Napier/NapierNomadII/NapierNomadII.shtml

http://www.enginehistory.org/Piston/Wright/Kuhns/CurtissWrightTC18/TurboCompounds.shtml

https://www.jsae.or.jp/engine_rev/docu/enginereview_06_01.pdf

https://ntrs.nasa.gov/api/citations/19870002357/downloads/19870002357.pdf

http://www.pilotfriend.com/aero_engines/aero_eng_dvmt.htm

https://www.enginehistory.org/members/articles/WasteHeat/WasteHeat.shtml

http://www.enginehistory.org/Piston/Wright/Kuhns/CurtissWrightTC18/TurboCompounds.shtml

https://www.jstor.org/stable/44547322

https://www.howmechanismworks.com/2017/07/how-compound-steam-engine-works.html

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsaeijae/3/2/3_20124031/_pdf

https://www.siemens-energy.com/global/en/offerings/power-generation/steam-turbines.html

https://www.rolls-royce.com/media/press-releases/2022/22-06-2022-rr-advances-hybrid-electric-flight-with-new-technology.aspx

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