はじめに
前回、Starshipの概要からしばらく時間がかかってしまいました!今回はStarship特集第二回、Starshipのロケットシステムの考察と打ち上げ能力の推定を行なって行きます。
- 第一回の続きを待っていた。Starshipの推定性能を知りたい!
- ロケットの打ち上げ能力の計算方法を知りたい
- 今回の記事のマニアック度:
SpaceXによるとStarshipの打ち上げ能力は100t以上とされているけど実際どうなんだろう?結構公表値がブレるから、どのスペックが本当でどのスペックが適当なのか分かりづらいことがあるよね。
Starshipは果たしてどれがけの貨物を打ち上げることができるのか!?
公表値を鵜呑みにせずに、私達自身で推定をして行きましょう。
この記事はStarship特集第二回、ということで連続編になっていますが、今回から読んでも大丈夫です。
第1回、第1.5回の記事はこちらから、記事の内容が理解しづらかった、あるいは最初から読んでみたい方は是非ご覧になってみてください。
特に第1.5回は各用語や性能に対する考え方を書いてあるので “1からロケット工学を勉強してみたい” という方にはオススメの内容です。
計算方法
使用ツール
第1.5回で紹介したロケットの性能の計算方法に従って検討を行って行きます。ここで使用したツールは3つ:
- RocketCEA: 前回の記事で紹介をしています。エンジン性能を計算します。
- Rocket Performance Calculator: 新しく準備した軌道計算用のツールです。具体的な計算内容や使い方は別記事で解説予定です。
- TrajectoryPlotter: bluedackさんからご提供頂いた描画用ツールです。
いずれもpython 3.10で動きます。
ややこしい計算は置いておき、早速検討結果を見てみましょう!
感度解析・項目
仮定した諸元に対して、”とあるパラメータを変更した時に出力がどれぐらい変わるか”計算することを感度解析等と呼びます。打ち上げ能力(ΔV、ペイロード重量)を出力とすると、パラメータはエンジン性能や機体の重量になります。
今回は下記の項目を設定しました:
- 1段目/2段目 Isp効率
- 1段目/2段目 推力
- 1段目/2段目 構造効率
- 残渣推進剤割合:(着陸用にタンクにどれぐらいの燃料が残っているか?)
- ペイロード重量
これらそれぞれがΔVに及ぼす影響を簡易軌道解析で確認して行きます。
Starshipの場合は1/2段共に再利用型ロケットのため、着陸用にある程度燃料を残しておく必要があります。どれぐらいの燃料を残すかによって、当然打ち上げ能力に影響が出てくるため、エンジンや機体の性能だけでなく、残渣推進剤の感度も確認します。
再利用できるという点ではコスト面で有利だけど、余計な燃料を積まないといけない分、打ち上げ能力は減っちゃうってことだよね。その影響を見るっていうことだね。
前提
公開諸元
SpaceXが公表している数値は下記の通りです。
1段目 | 2段目 | |
---|---|---|
推力 | 約230t | ? |
エンジン個数 | 31 | 6 |
燃焼室圧 | 33MPa | 33MPa |
推定諸元
公開されていない諸元については、下記のように推定を行い、感度解析で妥当な値を絞り込んで行くこととします。またそれぞれの基準値は、ここを基準としてその他パラメータを振る基準点としています。
1段目 | 2段目 | |
---|---|---|
重量 | 4000t | 1000t |
Isp効率 (基準値) | 80~100% (100%) | 80~100% (100%) |
推力 (基準値) | 60~120% x 230t (100%) | 60~120% x 230t (100%) |
ペイロード重量 | – | 80~150t (100t) |
構造効率 (基準値) | 80~100% (99%) | 80~100% (99%) |
残渣推進剤 (基準値) | 2.5~15% (10%) | 2.5~15% (10%) |
O/F | 3.7 | 3.8 |
ノズル膨張比 | 34 | 150 |
各種損失
3DoF解析では下記の損失を考えます。
- 空力損失
- 重力損失
- 軌道損失:軌道最適化していません。各諸元に対して最適軌道が異なるため。
その他、機体の詳細情報が必要となる損失や6DoF計算が必要なものは除外してあります。他の損失も入れると、0.5~1.0km/s程度ΔVが減少してしまう可能性がありますが、軌道最適化の結果次第では相殺できる部分もあり、機体の詳細諸元がないと計算できません。そのため、簡易的にロケットの打ち上げ能力を見る目的では使用しません。
どのような項目があり、今回どれを考慮しているのかは、第1.5回を見てみてくださいね。
軌道
あくまでロケット単体の能力を比較するため、緯度0°、経度0°から打ち上げる“赤道打ち”とします。こんな感じで赤道回りを回る成り行きの軌道になります。(インテラクティブ画像なので動かせます)
フロリダで打ち上げる場合は、自転速度で更に0.1km/s、軌道損失で0.2~0.4km/sほど余分に打ち上げ能力が必要ですが上記の理由で省略します。
何も考えずに適当に軌道投入すると、このように、楕円を描いて地表に戻ってきてしまいます。
あれぇ?
軌道を作るのが面倒すぎて諦めただけじゃんじゃ。。。?
ギクリ、、、
りなこの言う通り、2軸で姿勢角を作り込んで軌道を成立させるのには結構労力が必要で、それだけで1テーマになってしまうので。。。
人工衛星の軌道を高速で、あるいは正確に計算したい方は別のツールをご検討ください()
パラメータとして考えるのは以上です。
現実に構造効率100%やIsp効率100%はあり得ませんが、これを理想形の上限値として基準値としました。現実的には基準に対してどれぐらい能力が下がりうるか、というのを見て行きたいと思います。
このツールの真価は、高度やO/Fによって時々刻々と変化するIspを逐次計算して、空力諸元等も加味したブースターの能力が推定可能な点です。
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