空力性能の比較
Cl値とCd値の比較
さて、これまでの内容を踏まえて、再び最初の比較を見直してみましょう。
車種 | Cd値 | CL値 | CL/Cd |
---|---|---|---|
トヨタ プリウス (ZVW50) | 0.24 | 0.007 | 0.029 |
マツダ RX-7 (FD3S) | 0.32 | 0.0 | 0 |
マツダ ロードスター(NC) | 0.30 | (推定0.009) | 0.030 |
メルセデス Cクラスクーペ | 0.26 | 0.004 | 0.015 |
Noah | 0.32 | (推定0.05) | 0.156 |
エアバスA350 XWB | 0.027 | 満載時推定0.4 | 14.81 |
Redbull RB16 | 0.5~1.0 | 推定-2.0~-4.0 | -1.0~4.0 |
Audi R18 TDI | 0.38 | –3.0 | –7.89 |
また新しいのが登場しましたね?Redbull RB16はF1マシンの推定値です。またAudi R10 TDIはル・マン用のLMP1車両です。レーシングカーの場合はボディが翼面になっているため、前方投影面積ではなく、アンダートレイを基準として面積を考えます。CL/Cdを比較すると、飛行機はCL/Cdが大きいほど、車はCL/Cdが小さい(マイナスの値である)ほど空力性能が優秀と言えます。
これを見ると、巨大な翼と流線型な胴体を持つだけのことはあり、旅客機が圧倒的に優れています。また、燃料が減って必要な揚力が減少すると、更に良くなってきます。次いで、ル・マンカーがかなり良好な数値であることが分かります。F1マシンは翼面積が小さく、ルール上むき出しになっているタイヤの抵抗が大きいため、少し劣っていますがCL値自体は非常に大きな数値です。また車重が非常に軽いのでLMP1カーよりも結果的には速く走ることができます。
乗用車に至っては、CL値が正の値になっており、ダウンフォースの優劣を語る以前に、そもそも車体を抑えつける力が機能していません。乗用車はスピードを出せば出すほど不安定になるのはこのためです。唯一RX-7だけがCL/Cd=0、つまり”ゼロリフト”を実現していることが分かります。
0.02といった数値を見るとどんぐりの背比べのように感じてしまうかもしれませんが、実際に0.01と0.02では2倍の差があり、運転した安定感はまるで違います。ミニバンよりもセダンのほうが安心して高速道路を走れるというのも、ほとんどがこの空力性能の違いによるものです。
CL/Cdがロードスターやプリウスの5倍って。。。やっぱりミニバンはスピード出しすぎると危ないんだね、私はいいや、、、
たしかに空力目線からはあまり好ましくはないですが、一応ノアの名誉のためにいうと、ミニバンはそもそも車重が重く、多少揚力係数が大きくても不安定になりにくいという特性もあります。軽量なスポーツカーこそしっかりと揚力を抑えないと離陸してしまうので、直接空力性能だけを比較して優劣を決めることはできないと思います。。。(冷汗)
たしかに以前乗ってたヴォクシーは横風に煽られて長時間運転するのは疲れたけど、アルファードに乗り換えてからは安心して走れる気がするなあ。空力性能も重要だけどそもそも車重自体が重いから煽られにくいってことなんだね。
おまけ:コーナリング中の空力作用力と仮想翼キャンバについて
さて、ここまでは真っ直ぐ流れる一様流の中を走る車体について話してきました。しかしこれは現実では直線を真っ直ぐ走っているか、風洞でしか存在しない状況です。コーナリングによるピッチ、ロール、ヨー運動、横風等が関わってくると少し話が変わってます。
最後に、仮想翼キャンバとコーナリングフォースへの作用力について見てみましょう。車体が前進している場合、垂直尾翼に対して直角に空気が流れます。これに対してコーナリング中はタイヤにスリップ角がついているため、進行方向に対して車体に相対的にヨー角が付きます。さらにコーナー中は重心周りのヨー運動も発生するため、これらを足し合わせると、静止した空気側から見ると、横風と同じような状態、かつ旋回方向の流れ成分が存在します。
- スリップ角β:車体の向きと実際の進行方向の角度
- ヨー運動:車体が旋回する運動。
- 相対運動:重心点の動きに対する動き。
この時空気側から見ると、あたかも尾翼が曲面形状を持っているように見え、垂直尾翼にはキャンバがついた状態として振る舞います。仮想キャンバ尾翼の翼形状がヨーレートに応じて変化する特性になります。
例えば80m/s、5gでは45deg/sで旋回するので、旋回中心から2m離れた点ではπ*45°/360°*2m=1.57m/sで回転方向に移動します。仮想キャンバが発生することで2%キャンバとして働き、コーナリングフォースを高めることができます。飛行機においても同様の現象は発生しますが、ヨーレートが低いため大きな影響を及ぼすことはあまりありません。
ヨットの帆や回転するターボ機械のコンプレッサ/タービンブレードも似たような原理で、相対速度で考えることができます。動く物体と静止した物体による違いで空気は様々な影響を及ぼし、上手に利用することで有利な性能を引き出すことができます。ほとんどのレースカーではフラップやエルロン、ラダーのような空力操縦面が禁止されているため、このような発想力が重要になってくるのですね。
最後に
めちゃくちゃ勉強になった!カー雑誌とかだとよくCd値が話題になるけど、実際の空力性能を知るためにはCd値だけじゃダメなんだね。
CL値って聞いた途端、あ~どうせエコカーはCd値ばかりでリフトが~って批評家みたいなこと言い出すのかと思ったけど、プリウスってCL値も優秀なのにびっくりしちゃった。(速度違反の良し悪しはさておき) やっぱり高速道路であの手の車がいつも爆走してるのって、安定して速度が出せちゃうからなのかもね~ ( ̄ー ̄)ニヤリ
お、おう、そうだな。。。
お、おれのFDはファイナル交換してるから、とてもじゃないけどそんなハイスピードで巡航できないぜ。きっと違う誰かの車だろうな!
本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。今回は”ありがち”なCd値とCdA値の話をしつつも、車に本当に大切な空力特性について、解説してみました。
実際の車両はブレーキ時のピッチングでウィングの迎角が変わったり、グランドエフェクトが変わったりディフィーザーダウンフォースが変わったり、グリップを変えうる変数がどんどん増えて空力性能が高くなればなるほど運転が難しくなります。
また、スポーツカーを含むほとんどすべての市販車は、”CL値は正の値“なので、スピードを出せば出すほど、タイヤのグリップが減少して不安定になってきます。車の燃費や空力性能を重視したいのであれば、カタログCd値だけを鵜呑みにするのでなく、CdA値やCL値も調べてみると良いかもしれません。空力については今後も解説を書いて行きたいと思うので、また次回以降もよろしくお願いします!
気になった方、もっと知りたい方は参考記事をどうぞ。
参考・クレジット
単位系と定量的な比較について解説した記事:
引用記事:
くるまニュース空気抵抗について、もっと詳しく知りたくなった方向け:
https://www.sesarju.eu/sites/default/files/documents/sid/2018/papers/SIDs_2018_paper_75.pdf
https://history.nasa.gov/SP-468/ch7-5.htm
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