Flight 14の結果
2026年9月28日7時48分(米中部時間)、Flight 14がStarbaseから打ち上げられました。Shipは高度約262×277 km・傾斜角32°の地球周回軌道に初めて到達し、Starlink V3衛星26基を配備して、約3時間後に北太平洋へ着水しました。

| フェーズ | 計画 | 結果 |
|---|---|---|
| Super Heavy 上昇 | 33基 | 1基が上昇中に停止、ホットステージングで分離 |
| ブーストバック | 液体酸素を使い切る限界試験 | 予定どおり燃焼 |
| 着陸噴射 | 13基→5基→3基 | 予定どおり3基まで絞り込み、メキシコ湾の目標地点に着水 |
| Ship 上昇 | 6基 | 真空用(RVac)1基が早期停止、残り5基の燃焼延長で計画の軌道へ |
| 軌道投入 | 海面用1基(T+25:17) | 成功:初の地球周回軌道 |
| 衛星放出 | Starlink V3 26基 | 全基放出・全基と通信確認 |
| 軌道離脱 | 約6周後(T+8:52) | 安全側の判断で約2時間後(T+2:12)に繰り上げ |
| 着陸噴射・着水 | 3基 | 北太平洋の目標地点に着水 |
エンジン停止と「氷」の問題
Flight 14では上昇中に、ブースターとShipでエンジンが1基ずつ止まりました。どちらも残りのエンジンの燃焼を延ばして補い、計画の軌道に届いています。SpaceXはこの停止を受けて、安全側の判断で軌道離脱を繰り上げました。
エンジンが止まっても大丈夫なの?
上昇中の1基なら、残りのエンジンで補えるように作られています。本当に厄介なのは、帰りのブースターで何基もまとめて止まる「氷」の問題です。
これまでの経緯

SpaceXはFlight 2とFlight 3の原因を「液体酸素をエンジンに送る部分のフィルターの詰まり」と発表しました。公式に「氷」と書いたのはFlight 13が初めてで、ブーストバックの終盤に中央の3基に氷で詰まった兆候があり、燃焼を早めに打ち切ったと説明しています。
氷はどこから来るのか
SpaceXは、氷の正体や発生源を文書では公表していません。公開情報から考えられる説を4つ、有力な順に見ていきます。
説1:加圧ガスに水と二酸化炭素が混ざっている
Starshipはヘリウムを使わず、エンジンから取り出したガスでタンクを加圧します。マスク氏は2024年6月のインタビューで、酸素タンクに送るガスは純粋な酸素ではなく、少量の水の氷を含むと説明しました。

全流量二段燃焼では、酸素の全量が酸素リッチのプリバーナーを通ります。そこで燃料が少しだけ燃えるので、ガスには水蒸気と二酸化炭素が混ざります。

どちらもタンクに入れば凍ります。水の氷は液体酸素に浮き、ドライアイスは沈みます。
スペースシャトルは、熱交換器で液体酸素を気化させた純粋な酸素ガスを使っていたわよね。どうしてStarshipはそうしないのかしら。

ここからは管理人の考察です。メタンは燃焼室の冷却に使うので、その出口から温まったガスを取れます。でも酸素は冷却に使わないので、エンジンの中で熱い酸素があるのはプリバーナーの下流だけなんです。そこから配管を引けば、39基すべてに熱交換器を付けずに済みます。
概算すると、上昇中だけで約19 tのガスが酸素タンクに入り、そのうち1〜2 tが水と二酸化炭素です。一方、熱交換器で同じ量の酸素ガスを作るのに必要な熱は1基あたり約2 MWで、無理な量ではありません。熱が足りないのではなく、部品を増やさないことを優先した割り切りだと管理人は考えています。
説2:分離と反転の揺れが、氷を出口へ運ぶ

氷がタンクにあるだけなら、すぐには詰まりません。ホットステージング直後の急な減速と反転で液体酸素が大きく揺れ、氷がまとめてエンジンの入口へ流れ込む、という説です。FAAがFlight 2の後に求めた是正措置にも、「スロッシング(液体の揺れ)を減らす」設計変更が入っています。
じゃあ、氷ができる原因とは別の話?
そうです。説1は「氷の発生源」、説2は「なぜあのタイミングで詰まるのか」の説明です。Flight 13で詰まったのがブーストバックの終盤だったのは、液体酸素が減るほど氷が濃くなるからだと管理人は考えています。
説3:V3で配管を作り直し、フィルターが合っていなかった
Flight 3の後にろ過装置を追加してから、Flight 4〜11では再発しませんでした。V3では、内側の13基に専用の着陸用液体酸素タンクから供給する新しい設計になり、初めて33基でブーストバックを行ったFlight 13で再発しています。
対策がまたフィルターの改良だったので、作り直した配管に対してろ過が足りなかった、というのが管理人の見方です。配管を変えるたびに調整し直すことになるので、今後の設計変更でも再発する可能性があります。
説4:外から入った水分や、推進剤そのものの凍結
Flight 13は最初の打上げがエンジンの始動不良で中止され、NASASpaceFlight.comは液体酸素ターボポンプ内の水分が原因と報じました。また、メタンは−182.5℃で凍るので、冷やし込んだ液体酸素に触れれば凍る可能性があります。
ただ、前者は地上での別の問題で、後者を原因に挙げた報道は見つかりませんでした。飛行中の詰まりの説明としては弱いと思います。
まとめ:説1〜3は重なっている
| 説 | 説明していること | 確からしさ |
|---|---|---|
| 説1:加圧ガスの不純物 | 氷の発生源 | 最有力(マスク氏の発言) |
| 説2:分離・反転の揺れ | 詰まるタイミング | 有力(FAAの是正措置) |
| 説3:V3の新しい配管 | V3で再発した理由 | 管理人の推測 |
| 説4:外からの水分、推進剤の凍結 | - | 弱い |
ヘリウムをやめて軽くした代わりに、氷と付き合うことになったんだね。
全流量二段燃焼のエンジンから加圧ガスをもらう、Starshipならではの悩みです。次に挑むキャッチでは、最後の3基のうち1基でも点かなければ塔を壊しかねません。説1が正しければ、軌道上の給油でも、船から船へ液体酸素を移すたびに氷が溜まっていきます。氷対策は、再使用と給油の両方の前提条件です。
軌道投入に必要なΔV
Shipはこれまでの弾道飛行でも、ほぼ軌道速度に達していました。例えばFlight 12は遠地点195 km・近地点−7 kmで、放っておいても大気圏に落ちてくる受動的に安全な軌道です。
近地点 \( 0\,\mathrm{km} \)・遠地点 \( 275\,\mathrm{km} \) の楕円から、高度275 kmの円軌道に移る場合を考えます(地球半径6,371 km、\( \mu=3.986\times10^{5}\,\mathrm{km^3/s^2} \))。
\[ v_{\mathrm{circ}}=\sqrt{\mu/r_a}\approx 7.744\,\mathrm{km/s} \] \[ v_{a}=\sqrt{\mu\left(\frac{2}{r_a}-\frac{1}{a}\right)}\approx 7.662\,\mathrm{km/s} \] \[ \Delta V = v_{\mathrm{circ}}-v_{a}\approx 82\,\mathrm{m/s} \]軌道速度の約1%です。実際の軌道投入噴射も、Raptor 1基でわずか約19秒でした。
壁は速度ではなく、軌道に乗せたら確実に降ろせることでした。SpaceXは再点火と再突入を弾道飛行で何度も確認し、Flight 14でも帰りに使う海面用Raptor 3基が健全なことを確かめてから軌道投入にGOを出しています。止まったのが上昇専用のRVacだったことが、軌道に行けた決め手です。
残された課題
| 項目 | Flight 14時点 |
|---|---|
| 軌道投入・実用衛星の配備 | ✓ 達成 |
| 軌道離脱・再突入・目標地点への着水 | ✓ 達成 |
| 長時間の軌道滞在(熱・推進剤の蒸発データ) | ✗ 安全側の判断で短縮 |
| V3ブースターのキャッチ | ✗ Flight 15で挑戦予定 |
| Shipのキャッチ | ✗ 未挑戦 |
| Ship同士の推進剤移送(給油) | ✗ 未実証 |
Flight 14も、ブースターとShipを両方使い捨てた飛行でした。完全再使用という本来の価値から見れば、軌道投入はスタートラインに立ったところです。



















