低速風洞の主な方式
低速風洞は用途に応じて大まかにタイプが分かれます。レイノルズ数の関係上、スケール比の大きなもの、あるいは実物の速度が早いものほどより高速流が必要となります。
オープン型・セミオープン型
テストセクションが開放されているタイプの風洞です。測定物によってダクトが遮断されないため、測定精度が得やすく、また模型の入れ替えが楽などの利点もあります。
欠点としては流れの一部が失われるため、大きな動力を必要とし、運転コストがかかる点です。比較的流れの遅い自動車用風洞でよく使われ、流速は200m/s以下のものがほとんどです。
近年では騒音測定の重要度が高まってきており、多くの新設風洞は低騒音型のものとなっています。また、各種可視化装置にも対応したものが増えており、風洞業界にとっては早い革新ペースが迫られている現状です。
クローズド型
テストセクションがダクトと繋がったタイプで、流れの損失が少ないため運転コストに優れます。一方で測定物によって縮流が発生したり、壁面影響が大きく出てしまうため、測定結果に対して補正を行う必要があります。また、壁面付近の流線改善を狙った壁面表面に孔を設けたperforated wallやスロテッドウォールというものも広く利用されています。
高い流速が必要な航空機用風洞ではクローズド型がよく使われます。
“風洞”と言えばクローズド型がまず思い浮かぶ人も多いかと思います。大学の研究室などに設置される小型のものから、飛行機が入る超大型のものまで、広く普及しているタイプです。
ただし測定精度自体はオープン型のほうが優れることも多いです。
アダプティブウォール
クローズド型の一種で、壁面が測定物周りの流線に合わせて変形することで極力測定誤差を減らすことが可能な風洞です。壁の変形を応用してノズル形状に流路を絞り込んだりすることが可能な多目的風洞もあります。
測定物の流線がある程度閉じている、後方乱流が少ない模型で利用され、航空機や一部の自動車用風洞で用いられています。
上記以外にもダクトの配置方向など立地制限や試験目的に応じた形態で細かく分類することができます。
アクチュエータのお化けだ。。。高そう、、、
アダプティブウォールはただ精度アップのためだけに使うわけじゃない。ノズルを作って超音速・低速両対応の試験をしたり、意図的に均一でない流れを作ったり、様々なタイプが存在する。
もちろん値段も”超”高額だが高速高精度の計測には欠かせないんだ。
パラメータ
風洞試験を行うための主なパラメータです。
風洞本体
- 流速:風速のこと
- 気圧
- ノズル面積:縮流部出口、すなわちノズル部の出口面積
- コレクタ面積:ディフューザーに入る部分のこと(コレクタ)、この部位の面積
- テストセクション面積:ノズル面積との比率で表すこともあります。
- テストセクション長さ
- 乱れ強さ:測定物に到達する風の均一具合を表したパラメータです。0.X~といった単位で%で表します。
測定物
- 投影面積:風があたる方向から見た時の測定物の面積。
- ブロッケージ比:テストセクション面積に対する測定物の投影面積の比率。流路の何%が測定物で占められているかを表します。風洞の大きさに対して上限があります。
- 全長:長さ
- 測定点:どこから支持するか、のことです。
風洞の難しいところは、例えば同じパラメータの風洞で同じ物を測定しても、流路の設計など細かい差によって結果が変わってきてしまう点なんです。
同じ結果を得るためには、”全く同じ大きさで同一形状の”風洞が2つ必要になってしまいます。
具体例としてはトヨタの保有するTMG風洞で、全く同じ形状の風洞が二基あるんだ。
自動車用風洞の特殊性
ここまでは一般的な風洞を紹介してきたが、自動車用風洞は低速風洞の中でもまた厄介なんだ。りゅうた君はそれが何か分かるかな?
まだあるのかよー!
やっぱあれかな、よく車体の下についてるベルトとか。他ではあんま見ないしな
ムービングベルトのことだね。たしかに走行状態を再現するために地面も動かさないといけないし、色々と面倒が多そう。
低速風洞の難しさ
極超音速風洞などに比べると、低速風洞が直面する難しさには様々あります。
- 様々な測定物が持ち込まれる。必ずしも流線型ではないので補正が大変。
- 流速が遅いので、わずかなゆらぎでも大きな誤差となってしまう。
- 境界層が分厚く、現実状態に揃えるため様々な工夫が必要。
- 環境試験や騒音試験など他の試験と併せた機能が要求されることが多い。
中でも模型の形状により気流が乱れやすい割に高精度が要求される自動車用風洞はかなり難しいものとなります。
本来飛行機のように流線型のものを試験するための風洞。自動車のように気流の乱れが大きい物体を正確に測定するのはかなり難しいということなんだ。
自動車風洞特有の工夫
自動車用風洞にはもうひとつ課題があり、それは走行状態を再現するために、車体下面の気流をどうするか?という問題です。
車体の空力の大半は実は”フロア下”で決まります。境界層厚さが10cm以上にも及ぶ領域では、地面の状態で全く違う測定結果になってしまうので、いろいろな工夫が必要になってきます。
自動車用風洞では実車での走行データを元に地面の境界層を制御しており、代表的な装置としては下記のものがあります。
境界層吸い込み・吐き出し
タイヤや車体の前後で境界層の吸い込み・吐き出しを行う装置です。流速を車体速度に揃えることで実走行状態になるべく近づけるようにしています。
このようなダクトを測定物の前方に設置して、床から空気を吸い込みます。
ムービングベルト
これだーーー!これだよ!
車体の下の床を動かすことで境界層を制御し、実走行状態を作り出す装置です。1ベルト方式と各タイヤに設置される5ベルト方式などがあります。ただのベルトではなく、摩擦熱を吸収するための冷却装置や、フロアのサクションからベルトの剥離を防止する真空引き装置など、様々な工夫が凝らされています。
ベルトと言えばこれだな。原始的だが効果的で、ベルトがないとほぼまともなデータは得られないと思ったほうが良いぞ。
外からは見えない部分ですが、非常に複雑で高価な装置です。床下はこのような巨大な装置が埋まっています。
結果の取り扱いと補正式
風洞で測定した”生データ”には、模型の浮力や静圧差が考慮されていないため、現実世界とは必ずしも同じデータが得られるとは限りません。そこで登場するのが”補正式”です。
補正、とは言っても都合よくデータの合わせ込みをしてるわけではなく、ある程度決められた方法で評価を行っているんです。
次回はこの補正の部分について、見ていきたいと思います。
次回予告
本題は次回かよーー!
風洞っていろんな分野で使われてるのに、どんな装置かあんまり知らなかったぜ、、、勉強になった!
次回は風洞で得られた測定データを用いてどのように空力評価を行うのか、また風洞のパラメータによる補正方式について説明するぞ。
今回はここまでです!最後まで読んでくださってありがとうございます。いつものパターンですが次回が本題です、お楽しみに!
参考・クレジット
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvs/32/124/32_9/_pdf
https://www.mdpi.com/1999-4907/11/8/803
https://www.etw.de/wind-tunnel/aerodynamic-circuit
https://yamadaindustry.co.jp/general/
https://response.jp/article/2013/12/10/212666.html
https://kashika.info/wp-content/uploads/2018/06/5c662f28643029d4652c4b7a9f247444-1024×1024.jpg
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