航空宇宙・防衛

【SpaceX】特集 <第1回> 冬コミスペシャル:Starship/Superheavyとは

革新的な機構の数々3.

姿勢制御

コールドガスジェット

Falcon 9 にも使用されている一般的な姿勢制御方式です。圧縮窒素等を噴射することで推進力を発生させ、大気圏外でも姿勢を制御します。初期にはSuperheavyにも使われていた方式ですが、のちに後述するホットジェットへと変更になりました。

Falcon 9帰還マニューバ時には太陽光を反射して光輝く光景が有名です。

https://www.youtube.com/watch?v=iwIp3SDBibw

自己加圧式ホットジェット

Starshipではタンク加圧用の推進剤の一部を燃焼させてホットジェットとして使う方式が採用されています。液体酸素タンク、液化メタンタンクそれぞれに供給されるガス酸素とガスメタンを燃焼させてスラスタとする方式です。

一般的に “姿勢制御スラスター”はメインエンジンとは別にに考えられがちですが、推進剤を消費するロケットエンジンの一種なのでIspが登場します。メタンは比較的分子量が小さくIspに優れる他、タンク内に供給される自己加圧用のガスを使うことで多くのメリットが生まれます。

  • 窒素のコールドガスジェットではIspが80s程度なのに対して加熱メタンでは150s程度、燃焼式のホットスラスタでは200sを超えるIspが得られ、消費推進剤を減らせることができる。

  • 専用の圧力容器の必要性がなくなり、推進剤タンク内に供給するガスを有効活用することができる。

  • 自己加圧式タンクの内圧を利用することで、複雑な昇圧系や燃料供給系が省略でき、システムが簡略化できる。

採用されているスラスタの基本原理は家庭用コンロと変わらず、供給されたガスを燃やすだけの簡素な装置です。他機種ではハイパードリック推進剤に頼るケースが多く、このような方式の採用例はほとんどありません。

地味ながら効果的な方式はSpaceXの独創性が光っている部分です。

固定式グリッドフィン

グリッドフィンは極超音速での制御特性にに優れ、ミサイル等でよく用いられる方式です。Superheavyの上部に取り付けられ、帰還時の姿勢制御に用いられます。形状は一般的なグレーチング状のものになっています。写真では分かりづらいですが、人間やFalcon 9用のものとならべるとかなり巨大なサイズであることが分かります。

グリッドフィン及び駆動アクチュエータ
Falcon 9 用、Superheavy用のサイズ

Superheavy固有の特徴としては、グリッドフィンが固定式という点です。打上時にも突き出したままで使用される、まさにミサイルのような方式です。固定式は重量面や上昇中も多少の制御ができるというメリットもありますが、基本的にはただの抵抗源のため、今後改められる可能性も考えられます。

誘導爆弾用のグリッドフィン

グリッドフィンとホットガススラスタの使い方をよく表したアニメーションです。このチャンネルには他にも面白い考察ビデオがたくさんあるので、おすすめです!

大気圏突入・給油・着陸機構

染み出し冷却

SpaceXは当初、Starshipの大気圏再突入時に機体表面から残渣推進剤(メタンガス)を出して冷却をするという方式を考案していました。これ染み出し冷却の一種で、機体表面に空けられた微細孔から徐々に染み出したメタンガスがガス層を形成し高温の外気から表面を守るという仕組みです。触媒や反応炉、またロケットエンジン燃焼室の冷却などで使用実績はあるものの、機体冷却用としては全く前例のない方式で懐疑的な声も少なくありませんでした。

さすがに難しかったのか、この方式は採用されず、現在では従来的な耐熱タイル方式になっているの。最終形がどうなるのか気になっていただけに、少し見たい気持ちもあったかもしれないわね。

耐熱タイル

フィルム冷却に取って代わられた耐熱タイルですが、シリカベースのカーボンシリカタイルが使用されています。スペースシャトル用のLI-900材よりも密度が高く、断熱性能では劣ります。より産業界で一般的なセラミックタイルに近い材質となり、機体の表面には金属製のアンカーに差し込むことで固定しています。

炉壁用タイルとSS用タイルの中間の性質を持つと考えられています。

価格は公開されていませんが、スペースシャトルのものより遥かに低価格と推察されます。タイルの薄さや密度から推測すると断熱性能は半分以下で厚さも薄いため機体表面はそれなりの高温になると考えられます。ここで活躍するのがSUS301の高い耐熱性能と、低い熱伝導率です。高温にも耐え、熱を内部に伝えにくい性質を利用して、最小限のタイルで済まし、低コスト化と軽量化を両立しています。

Starship上部のタイルパターン

タイルは六角形の統一形状で、角部等を除いてほぼすべてが同一部品で覆われます。また、タイルの裏側には初期はセラミックファイバーブランケットを敷いていました。現在ではタイルと一体化し、効率よく組立ができるように改められています。

Superwook等に代表されるセラミックファイバーブランケットは密度が低く、断熱性に優れるものの、綿のように柔らかい材質かつ水にも弱く、直接外表面に貼ることはできません。表面はタイル、内側はブランケットで覆うことで最大の断熱効果を発揮しています。

Superwoolは暖炉から工業用加熱炉、ボイラーまで広く利用されている非常に安価な材料で、ハサミで切って貼り付け、ということもできてしまう施工性も抜群の断熱材です。高価な材料に頼らず機体を守るシステムを作り上げることができるのもSpaceXの技術力の現れでしょう。

https://i.stack.imgur.com/ZlBSm.jpg
https://i.stack.imgur.com/ymRAM.jpg

タイルと同様の材質はドラゴンカプセルでも試験されていて、ある程度の耐久性は実証済と見て良さそうです。ただしこれまではフライトの度に脱落や破損が見られたため、今度どのように強度を確保していくのは見どころです。

https://pbs.twimg.com/media/EDJ_f02UYAAR6zd.jpg

表面にはタイル固定用のアンカーがあり、また組立用のロボットも確認されています。

タイルアンカー
(NASASpaceflight – Nomadd)
 (NASASpaceflight – bocachicagal)

Starshipはこのように産業用の加熱炉とほぼ同じ2層式の断熱方法を採用しています。確立された製造方法と安価な材料を使うことで、宇宙船で最も難しい大気圏再突入をクリアしようとしています。IL-900よりは高密度とはいえ、シリカタイルは本来あまり振動に晒されるものでもなく靭性が低いのには変わりないため、どのように乗り越えるかが腕のにどころです。

この他、熱が集中する部分やタイルでは狭くて貼れない部分には従来通り、コルク材が使用されています。コルクは熱で気化することでアブレーション冷却を提供し、多くのロケットでどこかには使用されています。Falcon 9の焦げた胴体やイプシロンロケットなどでも広く使われている方式です。

https://twitter.com/JPMajor/status/1067134213298761728/photo/1

上の写真はNASAの火星探査機の再突入体に粉末状のコルク材を施工している様子です。決して遊んでいる分けではありません。

以前より空飛ぶプラント、という目線でロケットを見ていましたが、Starshipではついに名実ともに空飛ぶプラントに変貌を遂げたような気がします。
少なくとも宇宙業界ではほとんど前例のない方式がふんだんに使用され、その最たる例がタンクの製造方法と耐熱システムなのではないかと思います。

給油機能

Starshipは軌道上で給油が可能です。

可能というより、給油をしないと火星ミッションがこなせないから機能として必須、なのよね。

この映像は見たことがある人も多くのではないかと思います。貨物を搭載したStarshipを打上げ、推進剤を搭載した別のStarshipで軌道上で給油を行ってから火星に旅立つというものです。

少しだけ疑問に思うのは、何回の給油が必要か、ということです。Starshipは1000t以上の推進剤を搭載可能ですが、ペイロードは150t程度のため、満タンにするには7回以上もの給油が必要になってしまいます。何割まで給油してから火星に旅立つのかはこれから明らかになってくる興味深いトピックです。

12/30追記

Starshipのエンジン搭載数増強により、最低8回必要だった給油回数を5〜7回数で済むようになるとのことです。更に機体を延長するとの話もあり最終形態は未だ決まっていないようです!?計算上は200t近いペイロードを有することになり、完成形が楽しみですね。

https://www.teslarati.com/spacex-starship-upgrade-plans-elon-musk-2021/

バッテリー・ソフトウェア

SpaceXがTesla社からソフトウェアやセンサー、バッテリー等を流用しているのは有名な話ですが、Starshipのプロトタイプではテスラ用のバッテリーパックがそのまま搭載されていることが確認されています。EV用高性能バッテリーの開発と生産設備の立ち上げには何千億円という単位のお金がかかるため、開発初期から既に存在する電装周りを流用できるメリットは他にないアドバンテージとなります。

今後宇宙空間での使用のために放射線防護のため専注をしていくと考えられているため、このような光景が見られるのも今のうちなのかもしれません。

またハードウェアだけでなく、MBD用の物理モデルから飛行制御用のソフトウェア、機体システム用のソフトウェアも多くをテスラと人材交流や技術共有を行っており、従来の宇宙業界ではアクセスすることが難しかった最先端のソフトウェア・エンジニアリング技術を採用することができるのも大きな強みです。

内部冷却機構・ラジエータ

現在はまだ実装されていませんが、惑星間飛行のためには長時間フライトが必要になり、Thermal Management System (熱制御システム)とラジエータの搭載が必須になってきます。ここでも斬新な新機軸を披露してくれるのではないかと期待をしています。次のような方式が考えられています。

  • 巨大な機体表面を使った放熱制御。太陽側への耐熱タイル面と金属面の暴露割合を調整して吸熱放熱量を制御する方法。
  • 機体表面を2色 (白色、黒色) に塗り分け黒体度を調整できるようにする方法。
  • 機体内部で伝熱量を可変的に調整できる、熱輸送管の設置
  • 推進剤の一部を廃棄する直接熱交換方式、液滴ラジエータ等の搭載

など、研究段階のものも含め期待が高まります。

打上予定

2022年初頭にSuperheavy初号機の打上が予定されていますが、ここまで読んでくれた皆さんならもう予習は完璧です!

細かい数字やスペックが気になる方はNasaspaceflight.comやTeslarati、wikpediaにも大量の情報があるので、是非調べてみてくださいね。

Starshipの斬新な機構には何度も度肝を抜かれてきましたが、Superheavyの着陸方法が一番衝撃だったかもしれません。本当にキャッチなんてできるの!?私もドキドキしています。初回は着陸はせず、廃棄するようですが、史上最大のロケットの打上になります。是非一緒に見届けましょう!

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Trude (まきブロ管理人)
機械屋さん。多くの人に機械の面白さやエンジニアリングの楽しさを知ってもらうべく、解説や紹介記事を発信しています。
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  1. ex.laevateinn より:

    GREAAAAT WORK!!

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