結果のまとめ・推定能力
各感度まとめ
感度解析の結果をまとめると下表のようになります。着陸で使用する残渣推進剤の影響が圧倒的に大きく、これにより打ち上げ能力が大きく左右されそうです。
1段目 | 2段目 | |
---|---|---|
Isp効率感度 | 40m/s/% | 75m/s/% |
構造効率感度 | 60m/s/% | 95m/s/% |
残渣推進剤感度 | 90m/s/% | 200m/s/% |
ペイロード重量感度 | – | 14m/s/t |
推定スペック
計算結果より、100tを赤道打ちでLEOへ軌道投入するのに必要なおおよそのStarshipの能力を下記のように推定しました。
1段目 | 2段目 | |
---|---|---|
燃焼室スロート径 | 215mm | 200mm |
エンジン真空推力 | 227t | 211t |
Isp効率 | 97% | 97% |
Isp | 356s | 381s |
燃焼室圧 | 33 MPa | 33 MPa |
O/F | 3.7 | 3.8 |
エンジン数量 | 31 | 6 |
構造効率 | 96% | 94% |
初期重量 | 4200 t | 1000 t |
残渣推進剤 | 9% | 9% |
果たしてこの推測が合っているのか、全くの的外れなのかは打ち上げが行われてみないと分かりません!
うーん、でも結構公表スペックに近いし、あながちこんなものなのかも。着陸用の燃料を減らせれば150tやそれ以上のペイロードも可能そうだね。打ち上げが楽しみー
推定スペックの軌道
上記推定スペックで赤道打ちを行った場合、遠地点1890km、近地点250kmの楕円軌道に入ります。赤道打ちからのLEO到達に対しては、外乱を除けばこれで十分な能力が確保されています。
1段目 | 2段目 | |
---|---|---|
燃焼終了時間 | 182 [s] | 434 [s] |
燃焼終了高度 | 99 [km] | 271 [km] |
ダウンレンジ距離 | 195 [km] | 1405 [km] |
燃焼終了時速度 | 3003 [m/s] | 8179 [m/s] |
グラフを見ると周速や半径、高度が綺麗に楕円になって安定軌道に入っているのが分かるね。
無事それっぽい軌道になりました!大体はこんなところなのではないでしょうか。
損失の影響
仮に損失がなかった場合は、2段目燃焼終了時に、どれぐらいのΔVが発生していたのでしょう?先程求めた推定スペックから、空力損失を重力損失をなくした理論ΔVは下記の通りになります。
ΔV | |
---|---|
損失なし | 9.584 km/s |
重力損失 + 空力損失 | 7.718 km/s |
赤道での地球の自転速度が加わるため、2段目燃焼終了時の速度は8km/sを超えますが、ロケット単体の能力としてはこのぐらいです。
損失をΔVに換算すると大体1.8km/sぐらいになるから、結構ロスしているんだね。
赤道打ち、制御損失や横風風などの外乱がない場合は、大体9.5km/sぐらいのΔVがあればStarshipのスペックだと100tほど軌道投入可能だと言うことが分かりました!
ここから軌道変化や追加の損失に応じて打ち上げ能力は低下していく傾向なので、赤道に比較的近いテキサスからではやや能力は減少する可能性があります
最後に・次回予告・
以上、第2回でした!今回の解析で分かったことをまとめましょう。
- SpaceXが公表しているStarshipの打ち上げ能力や各スペックはおおよそ正しそう。現在の姿に近い形で初号機が完成する可能性が高い。
- 打ち上げ能力に最も大きな影響を及ぼすのは着陸時の消費燃料。次に影響が大きいのは構造効率とIsp。
- 今後空力減速や制御の最適化で着陸用燃料消費を抑えることができれば、Elon Muskの公言する150tや200tの能力増強型も作れる可能性がある。
いかがでしたでしょうか?ロケット実際の性能が判明する前に色々と推測するのは楽しいですよね。次回は今回使用したツールの紹介と計算内容、興味のある方が他のロケットでも使えるように、ツールの使い方の説明をしたいと思います。
何かと号外が多いブログですが、簡単に使えるようにツールを整備してみました。あまり検証ができていないため、間違っている点やご指摘等頂けると有り難いです。
それではまた次回、お会いしましょう!
参考・クレジット
Plotlyの描画スクリプトにbluedackさんご提供のスクリプトをお借りしました。
参考にした空力諸元:(M-V)
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