結果
結果の例
最も性能が良い模範例
全部のスペックが最大の場合、余裕を持ってLEO軌道に到達できます。緑線が1段目、オレンジ線が2段目です。フルスペックの場合かなり打ち上げ能力に余裕があり、勢いが有り余ってGTO軌道に近い楕円軌道になります。
性能が不足する例
ΔVが不足する場合、軌道投入ができず、このように地表に落ちてきてしまいます。また、2段目燃焼終了時には軌道に入っているように見えても、その後の軌道を見ていくと最終的には軌道化し失敗してしまいます。
このように、最終的に軌道化できているかどうか、によって軌道投入成功/失敗を判断します。
各パラメータを振った際に、獲得ΔVが軌道化に対して十分であるかどうか、を見ていきたいと思います。
ペイロード
横軸は100t x 倍率、縦軸はΔVです。ペイロード重量とΔVの関係はリニアではありませんが、100t前後ではおおよそ約14m/s/tになりました。エンジンや構造の性能が最高の機体の場合、ペイロード重量は190~200t程度が限界、と見て良いと思われます。
Isp感度
1段目のIsp感度は約40m/s/%です。1段目ではIspが不足する=推力が不足して重力損失が大きくなり、0.9以下ではまともに離床できません。しかし、最低限の推力がある場合の感度はあまり大きくありません。
2段目は1段目の約2倍、約75m/s/%になります。
やっぱり2段目Ispは効くんだね、、、
そうですね、1段目よりも2段目のほうがIspの影響は大きいです。先ほどのペイロードと比較すると、Isp効率をたった1%改善するだけで、打ち上げ能力は5tも増える=105%になることになります。
新エンジン開発において、”たかだか1%の改良なんて”、と批判されることがありますが非常に重要な指標だと言うことが分かりますよね。
構造効率感度
1段目構造効率感度は60m/s/%、2段目はなんと95m/s/%です。使い捨てならまだしも、再利用ロケットでは、1gの軽量化でも大きな性能向上に繋がる重要な要素であることが伺えます。
仮に1回の100tのペイロードの打ち上げ価格が50億円だとすれば、1%でも2段目の構造効率が改善できれば打ち上げ価格は3.3億円改善することに匹敵します。
大掛かりな試験が必要なエンジン開発と異なり、軽量化は地道な設計努力やマイナーチェンジで、最小限の開發コストで実装できるため、非常にコスパの優れる性能向上項目の一つになります。
残渣推進剤感度
残渣推進剤は着陸用に必要な燃料の量で決まりますが、実質的には仕事をしない余計な重量物を運んでいることになるので、構造効率と似た効果が得られます。横軸は全体推進剤搭載量の10% x 倍率 (0.2は2%、1.4は14%)で表しています。
1段目の感度は約90m/s/%ほどあります。
2段目の感度は約200m/s/%です。
1段目では獲得ΔVよりやや少なめのΔV、2段目では空力減速するため半分以下で十分と思われます。
仮に1段目着陸に必要なΔVを3.3km/sとすると、実に10%以上の着陸用燃料が必要になってしまい、これがかなり打ち上げ能力に悪影響を及ぼしていることが分かります。
仮に着陸を不要として、必要最低限の余裕(2~3%)の残渣推進剤とした場合の打ち上げ能力は250t近くになります。再利用のためには打ち上げ能力の半分ほどを犠牲にする必要があるということですね。
2段目の空力減速をいかに効率的に行うか、というのもかなり重要そう。重量が増えてでも翼を搭載するのは減速時に極力燃料を使わないためなんだね。
推力感度
あれ。。。?何か1段目のプロットがおかしいよ?
いい点にお気づきです。これはツォルコフスキーの式では得られない結果ですが、
“推力が不十分だと、重力損失が勝ってしまって、まともに加速できない”ということを表しています。そしてあまりに推力が小さいと離床しないので、獲得ΔVがほとんどなくなってしまいます。
これを踏まえた上で、推力は現状の230tからやや小さいほうが良さそうです。
2段目は姿勢角履歴のせいもあり、推力が小さい=燃焼時間が長い=軌道方向の燃やせる時間が長い、このため推力が小さいほうが有利な結果となりました。Starship 2段目には6基のエンジンが搭載されますが、着陸用の3基は離陸時には出力を絞る、あるいは途中でカットするのではないかと思われます。
しかしここにまた落とし穴があります。2段目の推力が絞られた場合、落下している影響で速度はあがるものの、軌道は地球に向かって落ちて行ってしまっています。このまま飛び続けると地面に激突してしまい、ロケットとして使えないということが分かります。
2段目は低い推力でゆっくりと燃やしたほうが良さそうに見えますが、速度だけでなく、軌道の素性も観ることが必要だと分かりました。
その一方で、特に1段目に限っては、離床後速やかに射点から離脱したい、という安全上の検討も必要なため、必ずしも最適解が使えるわけではありません。様々な制約の中必要な推力を決めなければならないのです。
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