航空宇宙・防衛

【砲術入門】(前半) 短編:B-29射撃管制装置の先進性と偏差射撃の基本 

はじめに

やあ、みんなは映画やゲームなどでこういう画面を見たことはないかい??

HUDやんけ! エースコンバットでいつもお世話になったぞお。ボスをガンキル出来た時は感動モノだよねえ

正解!さすがミリオタのイタル君だ。今からでも入隊して体も鍛えないかい??

、、、
ぼくはスーパーハカーだから電子線部隊で頼むよ。。。

今日は射撃コンピューターの仕組みの概要と射撃管制装置がどれほど重要な装置か解説して行きたいと思います。実際の計算を行う本編は後半で紹介する予定なので、前半は概要の解説をしていきたいと思います。

この記事の概要

  • 射撃管制装置とは何か、どうして重要なのか紹介します。
  • B-29がなぜ撃墜が難しかったか説明をします。
  • 今回の記事のマニアック度:2 out of 5 stars

(前半):B-29に搭載された先進的な射撃管制装置を紹介します。
(後半):砲弾の弾道計算とFCSの原理について実例を交えて説明します。

B-29のFCS

第二次世界大戦とB-29

 歴史の授業では日本は物量と意思決定、あるいは原爆に負けたという教え方もしますが、米国は大戦中にいくつかの先進的な兵器を生み出しており、基礎科学技術力に大きな差がありました。例えば:

  • 数学理論によって誕生したナチスのエニグママシーン(暗号化装置)、そして米国によるエニグマコードの解読:その一方で日本軍の原始的な暗号は開戦初期から解読されていました。
  • 電子工学、機械工学の発展で誕生した近接信管 (VT信管):敵機に接近した際に爆発し、命中せずとも損害を与えることができる夢の弾頭。
  • 機械工学:日本軍機よりも高い高度を飛行し、迎撃が困難だったB-29爆撃機:友軍から反撃できない敵の恐ろしさは、想像に容易いかと思います。
  • 素粒子物理学によって誕生した原爆:説明不要ですね。。。

などなど。いずれも当時最先端の数学、科学を駆使したものであり、戦局を大きく左右したのは間違いありません。しかし米国が最も先行していた分野は射撃管制装置とも言われています。

射撃管制装置とは何でしょうか、そしてどのような原理で動くのでしょうか?これらを軍事マニア的な視点から細かい解説をするのではなく、本編の計算の理解に必要な偏差射撃と照準器の簡単な原理について説明したいと思います。

もし今度角川文庫の書籍を手にすることがあれば、最後のページを読んでみるといい。創設者は先の大戦を”この国の文化力”の敗北と評しているんだ。戦略決定や科学技術はもちろん、戦争という道を選んでしまったのもその”文化力”の限界だったのかもしれないな。

B29の優位性を確立した主要技術

B-29には様々な先進技術が投入されましたが、中でも特に先進的で、優位性を確立したものが2つあります。

1つ目が排気タービン式過給器。空気の薄くなる高空でも出力低下がなく高速を維持できたため、日本の戦闘機では追いかけることが困難でした。また多くの対空砲の射程圏外を飛行することができ、ほとんど反撃に合うことなく本土爆撃を行うことができました。

2つ目は高度な射撃管制装置です。射撃管制装置 (Fire Control System、通称FCS) とは移動する目標に対して未来進路を予測し、横風等の誤差要因を計算しながら複数の射撃装置を正確に照準するためのシステムです。システムは照準装置 (目視情報やレーダー、レーザー測距器、赤外線等から構成されるセンサ類)、計算装置、射撃装置から構成されます。戦艦などに搭載される大掛かりなものでは実用化がされていたものの、飛行機に搭載できるレベルのものでここまで高度なものはB-29が世界初でした。

現代の戦闘機で言えば探知が難しく、アウトレンジも難しく、しかも接近してドッグファイトをしても強いF-22のようなものだったんだ。爆撃機でありながら戦闘機並の生存性を誇ったのが高性能の証だ。

他にも与圧室や自動弾倉など、上記以外にもB-29には様々な先進技術が投入され、今日の旅客機にもその技術の多くは採用されています。名実通りB-29はスーパーフォートレスの名に恥じないまさに難攻不落の万能選手でした。

  • 過給器によって、戦闘機や対空砲から逃れる高い回避能力
  • 迎撃を受けても、命中率の優れる防空火器によって敵機を返り討ちにする高い防御力

B-29に搭載されたライトR-3350星型18気筒エンジン。2500馬力ものパワーと高空性能を実現したのは排気タービン過給器。機体にはエンジンが4基が搭載された。

スペックを見ただけでも同じ世代とは思えないよなぁ。ドイツ軍の対空防衛網がいかに強力だったとはいえ、欧州戦線で使われていたB-17やB-24爆撃機の損耗率が7~25%もあったのに対して、B-29は生涯を通じてたったの1.38%なんだ。B-29を1機撃墜するために何機もの日本軍戦闘機が防御火器の犠牲になったんだぞ。

B-29の生存性 (Survivability)は特に有名で、(戦時中のプロパガンダで話が”盛られて”いるため正確な数字ではありませんが)、40機もの日本軍戦闘機から逃れて生還したこともあるほどです。

https://cdnc.ucr.edu/?a=d&d=SPNP19450111.2.3&e=——-en–20–1–txt-txIN——–1

爆撃機の防御力というと、機体自体の耐久性や装甲がイメージされがちですが、実際には30mm以上の大口径砲による一撃離脱戦法か、あるいは狼の集団狩りのような戦法が頻繁に用いられ、最終的には回避能力のほうが重要とされました。後者はまず小口径銃で防御火器(射撃手)を狙い撃ちにし、防御火器を無力化した後に接近してエンジンやコクピットを20mm以上の機関砲でとどめを刺す方法です。いかにB-17が頑丈とは言えども、防御火器が無くなってしまってはただの的です。この点において、そもそも砲塔を遠隔操作しているB-29は防御火器自体の生存性が高く、写真のような大きな損傷を被ってもまだ防御火器が生きている状態のことが多かったのです。

大きな獲物を執拗に追い回し、弱らせてからとどめを刺す狼の狩りに似ていることから、爆撃機の迎撃部隊はWolfpack等と呼ばれることもあった。B-29とは言えど護衛戦闘機と一緒に飛行することがほとんどだったため、ハリネズミのような防御と同時に護衛戦闘機の対処も必要で、もはや大戦末期の日本軍には打てる手がなかったんだ。

一般的なFCS

空気中を飛翔する弾丸は横風や重力など様々に力に晒されます。それらすべての力を瞬時に計算して、狙い点からどれぐらい弾が逸れるかを計算し、敵機に命中させるためにはどこを狙えば良いのかを導いてくれるのがコンピューターの役割です。このような計算を加味して狙いを定めることを偏差射撃と呼び、昔は人力に頼ることも多く、ほとんど職人芸でした。

戦時中当時の戦闘機に搭載されたガンサイトは目標と自機の相対位置と速度からどれほどの見越し量が必要か計算して、パイロットにどこを狙えば良いかレティクルという狙い点マークで表示する役割を持っていました。

このような一連の計算は簡単なものは戦闘機にも搭載されていたものの、正確な計算ができる精度があるものは大戦初期は非常に大型で、小型のものは精度や追従性が甘く、やはり人力に頼るところが多かったのが実情です。

当時の光学・レーダー照準式艦載対空砲のFCSを示したもの。昔のコンピュータではこれほどの大掛かりなものを航空機に搭載するのは難しかった。

次に出てくる動画は旧式のB-17やB-24で用いられたBall-Turretです。中に人が入って操作するため、まずはここから狙い撃ちにされることが多く、最も死亡率の高いポジションでした。また砲塔自体が大型のため空気抵抗源ともなり、イイトコナシと言ってしまって良い代物でした。

ガンダムに出てくるヤラレメカの代名詞”ボール”のデザインは、現実世界でもヤラレメカだったボールタレットから来ているとも言われているんだ。しかも搭乗員になったらまず最初は丁稚奉公でここから始めるという鬼畜さ!絶対に乗りたくない場所だったに違いない。

B29のFCS:精度

偏差射撃を行うにあたっては、弾丸に対して次の項目を考慮する必要がありますが、大戦初期のものは目標との相対位置と速度のみが計算される仕様のものも多く、実際の射撃ではパイロットの経験で更に偏差を調整する必要がありました。これに対してB-29のものは最初から重力影響、横風影響はもちろん、弾丸のドリフト特性などもちゃんと計算されており、飛躍的な精度向上に役立ちました。

偏差射撃に必要な要素

  • 目標との相対位置、速度
  • 重力
  • 揚力・抗力
  • コリオリ力
  • マグナス効果
  • スピンドリフト
  • 歳差運動とタンブリング・ジャイロ効果
  • ばらつき影響

計算の詳細については後半で実例を交えて解説していきたいと思います。

スパコンのような演算能力が搭載できる艦船や地上設備ならばすべての力に対してXYZ軸の移動とピッチヨーバンクの6自由度(6 DoF)の計算も可能ですが、10~100万rpmで超高速回転しながら進む弾丸に対して戦闘機サイズの小型な演算装置でこれらをすべて瞬時に計算するのは現代でも至難の業で、4ないし5自由度に省略して計算されることが一般的です。爆撃機とは言えアナログコンピュータしかなかった当時に精度よく射撃計算ができたのはまさに革命的なことでした。

僕の操縦するF-15では当然すべての計算はFCSが行ってくれるけど、それでも機関砲を命中させるのはすごく難しいんだ。FCSの補助なしでやれなんて言われたら、ちょっと厳しいな。

B-29のFCS:制御

B-29のFCSは照準器と銃座が一組の旧来のものとは異なり、照準手が入力したデータを元に、中央制御装置からすべての砲塔を自動的に制御することが可能でした。この機能によって前後左右どこから攻撃をされても、常に精度良く、最大火力を投射することが可能で、かつ照準手は安全な場所から敵機を狙うことができたため、乗員の生存性向上にも大きく役立ちました。

うう、、うちにもこれがほしいんだお、ゾンビが来たときに蹴散らしてやるぜ。。。

試験用の照準座と砲塔構成から分かる通り、任意の場所から砲塔の制御が可能でした。しかし唯一の例外は後部銃座で、ここは旧来と変わらず敵の砲火に直接晒されます。米軍の制空権が確立された大戦末期においても最も危険な位置の一つと言われていました。

B29の照準器の操作方法

これは戦時中にB-29爆撃機の搭乗員向けの研修ビデオとして作られたものです。要約すると、“ややこしい計算はFCSがすべて処理してるから射手は照準を定めて敵機の距離だけを入力すれば良い“ということになります。教材一つ取っても誰にでも分かりやすく、飽きなように要点を簡潔に押さえて説明しているところがやはり米軍のすごいところでしょうか。

この手のアニメーションを使った研修ビデオは当時の米国では多く作られて、今見ても分かりやすいからすごい。こういう一見兵器とは関係ないところでも”文化力の差”、つまり国力の差があったのは間違いないだろうな。

いい点ばかりを述べてきたが、B-29は高性能を実現するために構造が複雑で、製造が非常に難しく、またエンジンの信頼性が低いという問題があったんだ。大量生産が中々軌道に乗らず、野外工場で寒天の元、婦女子や老人まで製造に従事した超ブラック職場とも言われている。しかもエンジンが改良されるまでは敵に撃墜されるよりもエンジン火災で機体が失われることも多く、超高コストやこの生産性の問題は最後まで米国を苦しめたという側面もある。

現代の砲術

現代の計算

現代では弾道ミサイルや超音速弾頭を迎撃する必要のある艦船では6DoF計算が一般的です。その一方でFCSの類はどんどんと小型の火器にも搭載されるようになり、地上の牽引砲や迫撃砲はもちろん、小火器にまで搭載されるに至っています。

ばらつき影響を排除した4DoF計算であれば、スマホ程度の能力があれば十分なリアルタイム演算が可能なため、ついには歩兵単位でも使用が可能となっています。今では専用端末も不要ですが、既に10年前から弾道計算機能のついたライフルCheyTacも発売がされています。

これはCall of Dutyにも出てきたIntervention,,,!最高レベルの精度を誇るスナイパーライフルだ。。。こんなとこにまで弾道計算装置が搭載されていると考えると恐ろしいナ

軍事用のものだけでなく、狩猟用ライフル等を製造するHornady社からは簡易的な公式アプリまで公開されており、もはや誰でも弾道計算が出来てしまう時代なんだ。

https://www.hornady.com/team-hornady/ballistic-calculators/#!/4dof

なおNATO諸国では規格の統一のため、MPMTMという計算方法が導入されており、主な地上の火砲や小火器はこの規格によって弾道計算を行っています。

MPMTMとは

MPMTM (Modified Point Mass and Trajectory Model)とはNATO諸国が定めたStandardization Agreement (標準化)規格:STANAG 4355の通称で、砲弾や弾道弾の6自由度剛体運動を戦場でもリアルタイム弾道計算に用いることができるように、4ないし5自由度に省略する方法を示したものです。

実際に実装されているものは、SG2 S4 という標準化射撃管制ライブラリに組み込まれる標準ロジックになります。ソフトウェアコード本体は軍事機密ではあるものの、ロジックの中身は普通の物理法則をまとめただけのもので、一般の人でもアクセスができるようになっています。

次回予告

B-29をはじめ、大戦中の画期的な兵器は目に見える部分が注目されがちですが、それを支えたのは学術研究とソフトウェアだったのです。70年前にまだ機械式計算機が主流の時代に、このような装置を実用化していたのは驚異と言わざるを得ません。

今回は計算に向けた導入編という趣旨のためB-29のFCS自体についてはやや薄めの内容だったので、不完全燃焼になってしまった方もいるかもしれません。もっと詳細に知りたい方には是非おすすめしたいページがあります!非常に詳細かつ網羅的に書かれているので、一読の価値はあると思います。

http://ki84-hayate.info/archives/27842620.html

本日も読んで頂きありがとうございました、前半は以上です!

B-29のような先進的なFCSと人間の感覚頼みの射撃ではどれほど命中率に差があったのでしょうか?後半では MPMTMの計算内容と応用について解説と具体的な精度の差について計算をしてみたいと思います。それでは、本編でまたお会いしましょう~!

いよいよ次回本編です、おおまかにこんな感じの内容を考えています。お楽しみに!

参考・クレジット

https://aviation.stackexchange.com/questions/46681/how-does-the-target-indicator-on-a-jet-fighter-work

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%90%83%E9%9D%A2%E5%BA%A7%E6%A8%99%E7%B3%BB

https://www.nennstiel-ruprecht.de/bullfly/

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%81%AE%E5%8A%9B

https://www.researchgate.net/publication/327582502_Calculating_Yaw_of_Repose_and_Spin_Drift

https://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.885.7614&rep=rep1&type=pdf

https://infostore.saiglobal.com/en-gb/standards/stanag-4355-0-736122_saig_nato_nato_1787963/

https://www.mod.go.jp/atla/nds/Y/Y0006B.pdf

https://press.hornady.com/assets/site/hornady/files/ballistic/hornady-4dof-technical-paper-v2.pdf

https://airandspace.si.edu/stories/editorial/defending-superbomber-b-29s-central-fire-control-system

https://www.popularmechanics.com/military/weapons/a18343/the-cannons-on-the-b-29-bomber-were-a-mid-century-engineering-masterpiece/

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機械屋さん。多くの人に機械の面白さやエンジニアリングの楽しさを知ってもらうべく、解説や紹介記事を発信しています。
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